妹、智子の動揺

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妹、智子の動揺

今日は、彼が出張で東北に行っている。  智子は新居への入居のために、少ない荷物をまとめている。  私は自宅でテレビの音を聞きながら、通販カタログを眺めていた。  そんなとき、スマホが急にけたたましく鳴った。 「地震です!地震です!」  すぐに大きな揺れがきた。この揺れはかなり大きい。台所の方で棚から落ちた陶器類が割れる音もして、家の中が騒然となった。  二分くらい揺れただろうか。テレビではアナウンサーがしゃべっている。 「余震に警戒を!身を守る行動を!」  震度は5だと速報が出た。震源地は県内だ。  震災クラスではないが、街も大混乱しているだろう。  浮遊感のような感覚を味わいながら、割れた陶器類を拾い集める。  そんなとき、スマホに電話がきた。智子からだった。 「大丈夫!?」  と私が聞くと、智子は涙ぐみながら、 「お願い!助けて!」  と悲痛な声で言った。  話によると智子の家は停電しているらしい。電話はできるので基地局は生きているようだが、智子の家の周辺は軒並み停電していて、倒木が原因らしかった。  復旧までに数時間。智子はそれを待てないと早口で言った。  スマホの充電を始めたばかりで、電池が2%しかないと言うのだ。  結婚予定の彼が地震のニュースを知れば心配するに違いない。  それで電話に出られなかったら不安にさせてしまうのは明白。  智子は緊急時に慣れていない。入院生活が長く、人との関わりも希薄だったからだ。  誰かと連絡を取るための手段なんて普段から考えることがなかった。 「どうしよう、どうしよう!」と泣くばかり。  私が毅然としなければ、智子の精神にまた闇が訪れてしまう。どうにか気持ちをなだめてやらないといけない。 「分かったから落ち着いて。今すぐモバイルバッテリーを持っていく。自転車で10分、全力で行くから落ち着いて」  本当は自転車で20分かかる距離。でも時計を見ると正午の15分前。  お相手の彼がニュースを知るのは正午になってからと信じて、私は智子に告げる。
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