妹、智子50歳

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妹、智子50歳

 三ヶ月前、我が妹の智子に好きな人ができた。  智子は今年の誕生日で50歳になる。その智子に、生まれて初めて好きな人ができたのだ。  一言で50年と言っても、それは長く険しい道だった。  智子は親の影響で幼い時分に心を病み、それでもなんとか頑張っていたが、小学校、中学校といじめの対象になって、何度も自殺未遂を繰り返し、精神病院に長く入院することになった。  自傷行為と完全な無気力症で、協調性乏しく、顔からも生気が感じられない。  医者は自傷行為の危険があるうちは退院させられないと言い、智子が退院したのは35歳を過ぎた頃だった。  青春時代はなく、長期入院により時代にも乗れない。  智子の時間は中学校あたりで止まっており、美容にも芸能人にも興味がない、35歳の子供老人として現実社会に戻ってきた。  だから仕事が見つかるはずもなく、その後10年ほどは生活保護と小さな内職で暮らしていた。  45歳を過ぎた頃、一念発起して建設会社の事務員となり、ようやっと一人で生計を立てられるようになったが、生活は苦しいまま、また自傷行為の危険が感じられる日々を送っていた。  姉の私もできるかぎりフォローしていたが、時に妹の介護をしている気分になり、私自身もおかしくなりそうだった。  智子は私のことも、人のことも信用していない。心を病むとはこういうことなんだろうと思わされるほど、一人の殻に閉じこもり、本当は何を考えているのか分からなかった。
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