妹、智子の初恋

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妹、智子の初恋

 そんな智子に好きな人ができたのは49歳も終わりに差し掛かる三ヶ月前。  お相手は智子と同い年の同僚だと言う。  私も会わせてもらったが、気さくで素直でおおらかな人だった。  バツイチらしいが子供はおらず、離婚理由も元妻の浮気が原因で、彼は彼なりに関係を修復しようと努めたらしい。  その話をすべて信じるわけでなくても、嘘をついて保身を図る人には見えなかった。  智子のことに関しても、「精一杯お守りしたい」と言ってくれて、私は心強く感じたものだ。  智子には資産らしい資産もない。姉の私も裕福ではない。私たちの親は特養ホーム暮らしで、遺産らしい遺産も望めない。  お金がない。詐欺まがいのことをするなら智子は不適格。だとしたら本物の愛があるのか。それを信じられるくらいには、彼は誠実な優しい目で智子を見つめていた。  恋愛未経験者の智子は、彼なしで生きていけないと言って、結婚を強く望む。  彼も彼なりに礼を尽くし、郊外に建て売りの家を買い、私にも週イチで連絡してきて、信用に値する人間であることを示してくれた。  二人が結婚したいなら、邪魔をするのは良くないし、何より50歳ともなると、人生は折り返しを過ぎている。  苦しすぎた妹の半生を思えば、この結婚に任せてみてもいいかな、というのが姉の本音だ。  披露宴はやらないが、結婚式は挙げてくれる。その日は間近に迫ってきていた。
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