3 突然のお客様

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3 突然のお客様

 有咲と翔太が店に戻って来て数分後。  店の前をウロウロしている影が、扉の向こうに見えた。  有咲と翔太は顔を見合わせた。  時計は21時を指している。  そんな時間にいなり寿司を買いに来るお客いない。そもそも店は19時閉店だ。  意を決して有咲が店の引き戸をカラカラと開けた。 「あぁぁ、良かった! 開いたぁ! 僕の手じゃなかなか開けられなくて……爪を立てようかと思ってたところだったニャア!」  心底ホッとしたように言いながら店に飛び込んで来たお客を、有咲と翔太は息を飲んで、まじまじと見つめた。  お客様は白い猫だった。  薄ピンクの小さい鼻と口。  長い髭。  橄欖石(ペリドット)を思わせる薄いグリーンの瞳。  耳をピクピクさせながら、興奮した様子で早口に捲し立てる白猫に、有咲と翔太は驚きの声を上げた。 「ね、ねこぉぉ〜〜〜???!!!」  驚く二人に憮然として白猫が文句を言う。 「ねこだから、何? ねこは人を訪ねちゃいけないの? ねこは神様のお使いから外される? 誰が決めたニャ、ソレ? 何ルール? 誰得?」  小さい体で二人に詰め寄る白猫。  外見が愛らしいので、全く怖くない。 「ご、ごめんなさい。猫は人語を話さないもの、と思い込んでいたものだから、驚いちゃって」  有咲の言葉に白猫はフフン、と鼻で笑った。 「まぁ、普通の猫には無理だよね。僕のように修行を積んで何百年と生きないとさ」 「何百年も生きるって、……ね、ねこまた???」  白猫は小さな鼻と口からふはぁ、と息を漏らした。 「ねこまたって……僕をバカにしてるの? 僕は神の使いニャア!」 「ご……ごめん」  プンスカ怒っている白猫に、有咲と翔太は謝った。  白猫は直ぐに怒りを解いた。 「そ、それで白猫さんはウチになんのご用?」  「失礼」、と言いながらの椅子の上に飛び乗り、ぐいっと有咲の方に身を乗り出した。 「僕たちを、助けてくださいっ」  助けて欲しい割には大きい態度の白猫に、有咲と翔太が目を合わせる。  どうしよう……。  さぁ……?  二人は無言で、会話した。  常識の概念など、とうに吹きとんでいた。  翔太が胸を張っている白猫に問いかけた。 「助けると言っても……うちはいなり屋なんですけどね、どんな助けをすればいいんですか?」 「ありがとう! ありがとう! 助かるニャア……」  白猫は翔太の手に小さな両手を置いた。 「いや、まだ助けると言ってなく……ニャアって……」  翔太の言葉に白猫はニャハハと笑った。 「何百年行きていても、ネコ語がたまに混じっちゃうのニャ」  ニコニコ顔になった白猫に急かされて、二人は白猫に案内されるまま、ついて行くことにした。
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