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5 台所で試行錯誤
有咲はシロに説明され、慣れないながら竈に薪をくべ、燃やして行く。
翔太はその間に持参した油揚げの油抜きを行い、用意されていた食材から野菜を何種類か選んで細く細く切っていき、それを煮揚げに詰めてみる。
煮揚げを半分に切ると色とりどりの野菜が見えた。
半分をシロ、半分を有咲に渡す。
「詰めただけですけれど……」
シロと有咲はパクンと口に入れ、モグモグと食べてみる。シャキシャキと野菜の音がした。
「うーん……」
食べ終えたシロは口の周りをぺろりと舐め、首を傾げながら言う。
「店主、これは旨くない!」
有咲も苦笑いする。
「出汁のいなりと野菜がケンカしちゃってる」
翔太は対して悩みもせずに、頷いた。
「じゃあ、次はこちらを」
シロと有咲は再び口に運び、モグモグと味わう。
二人からシャキシャキと野菜を噛む音がするのは先ほどと変わらない。
「う、旨い!」
「おいしいっ」
シロと有咲は目をシロクロさせる。
「荷揚げをやめて、火で炙ってパリッとさせた油揚げを開いて野菜を巻きました。タレとして出汁酢を効かせたものに和ハーブを少量。生春巻きをイメージした油揚げ前菜です」
ウニャウニャとシロが何かを呟いた。
人語を会得してはいるが咄嗟に出るのは、猫語のようだ。
「いいぞ! 店主! サラダはこれに決まりだ。この調子で、どんどん行くぞ!」
喜ぶシロの様子に嬉しそうに微笑んだ翔太だったが、二人に背を向けて再びまな板に向かう。
翔太のその背が、調理場に立つ父と重なって見えて、涙が出そうになった有咲は、慌てて目を擦った。そして、鍋に火をかける。鍋に湯気が立ち始めたら、かいておいた鰹節をワシャと掴んで鍋に入れる。
煮立たぬように気をつけながら、出汁を取っていく。
透明感のある黄金色の出汁が美しい。
「これに寒天とカリカリに焼いた油揚げをダイス状にして、出汁ゼリー寄せみたいにするの。さっきのサラダ前菜に添えて。きっと合うと思う」
説明している有咲も、聞いている翔太も真剣だ。
お互いの意見で次に繋げる料理が思い描けるらしい。
二人の意見は白熱していく。
そして二人は、後ろで二人を眺めているシロを振り返った。
「そう言えば、神様って苦手な食物や嫌いな物はあるの?」
シロはウニャニャと首を傾げて腕組みする。
「そう言えば、聞いたことがないニャア」
「この土地を護っている鎮守様を訪ねてくださるのだから、この土地のもので饗すのが良いと思う。メインは油揚げだとしても」
翔太の言葉に、シロが大きく頷いた。
「さすがは、いなり蒲生の店主! 本質を心得ておるのだニャア」
髭を撫でながら、嬉しそうに頷いた。
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