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6 鎮守祭りの油揚げ懐石御膳
「たっ、大変ニャア!」
シロが台所に飛び込んで来た。
「まっ、前祭から大神様がいらしてるニャッ!」
転ぶのではないかと思うほど、前のめりになっている。
翔太は落ち着いて竈の火加減を見ており、有咲は何かを短い串に刺していた。
二人はシロを見ても平然としている。
「落ち着いて。こちらは大丈夫。仕込み数が足りないので、会席料理から懐石料理に変更します」
「大丈夫。簡単に言うと、会席料理はコース料理、懐石料理は一汁三菜+αくらいのお茶を引き立たせるためのお料理。禅寺でもよく出されるし、旬のものをメインにするから。この土地の物で大神さまを心からおもてなしします」
翔太と有咲がシロに優しく言うと、シロは涙を浮かべた。
「翔太、有咲ぁ。お前たち、先代より頼りないと思っていたが、なかなか大したものだな。よ、よし、では、ここは頼むニャ」
シロの言葉には反応せず、各々の作業に向き直る。
静かに、慌ただしく鎮守様の祭りが始まった。
【鎮守祭あぶらげ懐石御膳】
・折敷 シャキシャキ生野菜の揚げロールサラダの
出汁寒天添え
五色いなり寿司
・椀盛 ひじき、枝豆、海老入りひろうす
・焼物 厚油揚げのカリカリ焼き
・強肴 油揚げ巻きつくね
・吸物 根菜薄揚げ巻きのくず寄せすまし汁
・八寸 油揚げの信田巻
・湯桶
・香物 蕪酢漬けと小松菜醤油漬け
・菓子 油揚げパイの餡重ねミルフィーユ
・濃茶
「本格的な懐石ではないけど。材料を考えて、こんな感じで行こうと思う」
持参したノートに翔太が書き込んだメニューを見て、シロが和紙に筆でお品書きを書いていく。
「シロ、達筆だなぁ〜」
驚く有咲に、シロは胸を張る。
「僕に出来ないことはないのだ……ニャ」
猫語、交えないで話すこと以外はね。
有咲は心の中で呟いた。
本来は肴や肉などももっと使うのだが、油揚げがメインの料理と言う指定があったため、有咲と翔太、時折シロの三人で考えたメニューだった。
料理を作りながら翔太がポツリと言う。
「よく、先代が賄いに色々作ってくれたんだ。摘めるおやつとかさ。それが旨くて。店に出さないのか聞いたんだけど……。先代はただ首を横に振るだけだった。オレはそれが不思議だったし、もっとおやっさんの料理を広めるチャンスなのに、って不満だったな」
ふぅ、と竈に火を吹き込みながら有咲は翔太の話しに耳を傾ける。
「それってさ、いなり寿司って料理を他の料理と比べて下に見ていたって事なんだよな。おやっさんにも失礼だったな、ってここに来て気づいた」
配膳の手伝いに来たリスたちが、一の膳、折敷五十膳をみごお皿に盛り付け、酒と共にあっという間に運んでいく。
二の膳、ひろうすを揚げながら翔太が続けた。
「オレは大神さまの事を何も知らない。シロから聞いた各町鎮守様の取りまとめ神様ってことと、1年に一回、各鎮守社を見回っているってことしか」
50個ものひろうすが狐色に綺麗に揚がっている。
「先代の言葉を思い出した。商売人はどんな時も、自分ではなく、相手の事をみるものだって。ここで何を饗されたら嬉しいか、全力で考える。先代がオレの料理を食べて成長したなって思ってもらえるように」
……あと一回でもいいから、先代に自分の料理を食べてもらいたかった。
言っても仕方のない言葉は飲み込んで、ひろうすを薄出汁に浸して椀に盛る。
配膳係のリス達は、有咲が庭で取ってきた山椒の葉を洗って、丁寧に拭くと1枚ずつ飾っていく。
リス達によって、あっという間に出来上がった二の膳が大広間に運ばれて行った。
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