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7 大神様のご褒美
「翔太、有咲、良くやってくれたニャ」
シロが台所に入ってきたのは、濃茶を出し終わり、二人が達成と心地よい疲労感に包まれていた後だった。
「大神さまが今日の料理に感動したらしく、料理人と会いたいと言っている。大広間に一緒に来るニャ」
シロに連れられて二人が大広間に行くと、大神、鎮守、を始めとする神々が笑顔で二人を迎える。
「蒲生いなり店主、翔太、有咲。美味しいいなり御膳だった。この土地の物と合わせた料理の数々にいたく感動した」
大神の言葉に二人は頭を下げた。
「いなり料理を所望したのは他でもない。昨年、いなりの扱いが上手い料理人が我が宿に迷い込んで来てな、以来二人を私の料理人として抱えた。その二人が後継者の事をとても心配していてな、確認したかったのだが、結果は心配を上回った。相手を思いやった料理を作った料理人に一つ、褒美を与えよう。何を望む?」
翔太と有咲は同時に答える。
お互いに目も合わせないし、打ち合わせをしたわけでもないのに、願いは同じだった。
「あと一回……」
「あと一回で良いので、両親に会わせてください」
願い事を口にする二人の前に柔らかい光が、差した。
眩しくて目を瞑った有咲は、誰かに抱きしめられるのを感じた。
「お、お母さん……」
目を開けて、確認する。
翔太も父に肩を叩かれて涙ぐんでいる。
突然いなくなった人。
会いたかった人。
言葉を交わす訳ではなかったが、優しい抱擁と笑顔で有咲と翔太を労っているのが伝わってくる。
ひとしきり抱擁した後、有咲の両親は翔太と有咲を笑顔のままじっと見つめた。
「頑張れよ」
二人を応援する気持ちが伝わってきて、二人はまた、涙を浮かべた。
優しい笑顔を浮かべたまま、淡く優しい光と共に両親は消えた。
「喜んでいたぞ。おまえたちの料理も褒めていた。あの二人は私が召し抱えた凄腕の料理人だからな。いつか、おまえたちがあの者たちに会えるまで精進するといい」
大神の言葉に二人は涙を拭った。
震える、だが力強い声で大神に誓う。
「必ず。必ず精進いたします」
大神と周りにいた神々が微笑んで二人を見る。
強い風が吹いた。
目を開けていられずに、二人が目を瞑る。
風が収まり、二人が目を開けると「いなり蒲生」の店の前に立っていた。
「夢かな?」
有咲が呟く。
翔太は店の前に置いてある白い招き猫の置物に気づいた。
「これ……、シロだ」
有咲が招き猫の置物を胸に抱えると、後ろから次々と声をかけられた。
「あのー、すみません。明後日、部活の県大会でいなり寿司詰め合わせ弁当を配りたいのですが、今予約ってできます?」
「うちは明日、法事があるから、五目いなり詰め合わせ用意してもらいたいんだけど。30個ね」
鎮守社のご利益なのか。
蒲生いなりが賑わってきた。
鎮守様と大神様は二人の「あと一回」のお願いを聞いてくれた上に、お客様ももたらしてくれたようだ。
有咲と翔太は感謝を込めて、お客様に丁寧に頭を下げた。
〈了〉
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