雨女の憂鬱

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雨女の憂鬱

 離婚して半年がすぎた。そしてこの半年、会社の一年下である後輩くんは振ってもふってもめげずにアプローチしてきた。  もしもわたしが迷惑行為だとかハラスメントだとか訴えたなら、会社はそれなりの対応をしてくれただろうと思う。けれどわたしはそうしなかった。  なんでだろうと考えて、彼の気持ちを迷惑に感じてないのだと気がついた。そこそこ衝撃だった。そうか。わたしは嫌じゃないのか、と。  龍神の嫁なんて呼ばれるわたしはガチの雨女で、むかしから旅行とかキャンプとか、屋外イベントには誘われたためしがない。あたりまえだ。わたしが行けば必ず荒天になるのだから、好きこのんで誘う人間などいやしない。  理解も納得もしているけれど、やっぱり友人などが楽しげに旅行を計画していたりするとさみしい気持ちになったりもして。  きっと知らないうちに傷ついてたのだと思う。  そうして、やっぱり天候を理由に切りだされた離婚で、わたしはたぶんとどめを刺された。 『やっぱり晴れがいい』なんて、 知らない人間が聞いたらずっこけそうな離婚理由だけれど、こればかりはわたしの意志や努力でどうにかなるものではないし、改善できるものでもない。  それならしかたないねと離婚手続きを淡々とすすめながら、このさき一緒に遊びに行きたいと思うような親しい人間はもうつくるまいと、そう決意する程度にはショックを受けていた。  だから。  雨も風も雷も、龍神さまの祝福だとうれしそうに笑う彼に、わたしは知らずしらずのうちに救われていたのだと思う。  わずか半年まえの決意がゆらぐくらいには。  休日に二人で会うのは今日で三回目だ。食事をするだけ。買いものをするだけ。つきあうわけじゃないからと彼にも、自分にも釘を刺してきたけれど。  あと一回だけ、その手をとってみてもいいだろうか。  なにをいってもプラスに受けとめる、アホみたいにポジティブでめげない彼の手を。
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