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5
「なずな……」
私が泣き疲れてグスグスしていると、リビングの戸が開いた。
そこには、パパの姿があった。
そして、その背後には喪服姿の陽太が静かに立っていた。
「陽太……どうして?」
陽太は目を赤くして、唇を噛み締めていた。
「法要で見かけて、俺がここに呼んだんだ……」
パパは陽太の肩にポンと手を置いて、私をまっすぐに見つめた。そして、「二人でちゃんと話しなさい」と言い残してリビングから出て行った。
「なずな……」
陽太は、わたしの名前を呼んだきり何も言わず、手を差し出した。私をまっすぐに見つめる瞳は涙で潤んでいた。
あのことがあってから……ママがいなくなってからも、ずっと払いのけてきた陽太の手。
私は陽太の手のひらをじっと見つめた。
「支えさせてよ。なずなと出会ってから、俺にはなずなだけだよ。今までも、これからも……」
私は陽太の手から視線を上げて陽太の目を見つめた。
"自分の気持ちに正直に、素直になりなさい"
"自分の力で、幸せになりなさい"
ママの言葉が、私の背中を押した。
「……本当? 信じていい?」
私がそう尋ねるのと同時に、陽太は「信じろよ」と、私を抱き寄せた。
陽太の力強い抱擁、陽太の温もり、陽太の香りに不思議と癒されていく。
「どこにも行かないで……」「大好き」「寂しかった」「苦しかった」
素直な思いが涙と一緒に次々と溢れ出る。
陽太はウンウンと静かに頷いて、私の頭を撫でた。
ゆったりと時間が流れて、真っ暗闇だった心に灯火がともったように感じられた。
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