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ぽとり…………。
天井から水滴が落ちる。
バンは獄舎でうつ伏せになっていた。
扉が開き、足音が近づいてきた。
「動けるか? こっちに来い」
と声を掛けてきた兵士の言葉に、バンは違和感を覚えたが、従うしかなかった。
バンは床を這うようにして扉の方に進み、兵士の助けを借りて立ち上がった。
兵士から渡された水筒の水を少しずつ飲むと、階段にたどり着く頃には一人で歩けるようになっていた。
「もう、ひとりで歩けます。ありがとうございます」
不思議なことに、これから行くところに不安はなかった。
それだけ安心させる雰囲気をこの兵士は纏っていた。
二人は、獄舎の外に出た。
外には夜の帳が下りていた。
馬のいななきが聞こえた。
厩舎に向かっているらしい。
途中でほかの兵士に会うことはなかった。
「――あれぇ、そういえば、警備の者が見当たりやせんね?」
「ああ、誰もいなかったぞ」
「ふっ、ご冗談をいっちゃいけやせんぜ……」
バンは兵士のとぼけた言い方に思わず口元を緩めた。
「ふふふ、やっと笑えるようになったな。さぁ、帰ろうか」
二人の姿が暗闇に溶け込んで、消えた。
翌朝、村は歓声で沸き返っていた。
村長のバンが戻ってきたのだ。
朝靄の中、馬に乗ったバンは衰弱していたが、イカルが手綱を引いて連れてきた。
「よく頑張ったな、バン。おい、お前たち、村長を介抱してやってくれ」
とイカルが指示を出すと、村人たちはバンを屋敷に担ぎ込んだ。
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