辺境の嵐 (剣と仮面のサーガ)

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 王都守護庁の長官代理であるイカルは鋭い目つきをした剣士で、長い髪を頭の天辺で束ねている。  剣士としての彼は木綿の稽古服を緩く着ていても、鍛え上げられた筋肉の厚みを隠せなかった。  超絶した剣技と稽古以外のときに見せる笑顔に、多くの人々が惹きつけられていた。    ある日、イカルが六度目の廻国修行中、カフラの街に立ち寄った。  黒龍山嶺を背にしたカフラの街は、緑豊かで花々の間を石畳の小径が続いていた。  イカルは同じ御光流(みひかりりゅう)剣術の修練場で朝早くから夕方まで稽古に励んでいた。  イカルの存在は「剣聖」として知られ、教えを請う門弟たちが建屋の外にまで溢れていた。  その日は珍しく稽古がなく、カナツク川の畔で釣りを楽しんでいた。  川のほとりには朝露に濡れた草花が輝き、川面には樹々の影が映り込んでいた。  上流から小舟が流れてくるのを見たイカルは、釣り竿の手応えに集中しようとしたが、小舟から赤児の泣く声が聞こえた。  イカルは剣を抜き、川に飛び込んだ。小舟には意識を失った女性と泣いている赤児がいた。  女性は裕福な家庭の夫人らしく、太ももに大きな傷を負っていた。  イカルは女性を河岸に押し上げ、過去に助けることができなかった人々のことを思い出し、今回は絶対に救わねばならないと強く思った。  女性は薄く目を開け、赤児を抱き寄せた。 「あなたは剣士さまですか?」と女性はイカルの稽古着を見ていった。 「そうだ。廻国修行で立ち寄っている」イカルの声には決意と安心感が込められていた。 「……お願いがあります。どうか……この子をお願いします。スイリンを……」
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