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やはり女性は、この赤児の母親らしい。
「よし、わかった! わたしがこの子を守ってやるからな!」イカルは赤児の小さな手を見つめ、その未来を守ることを誓った。
「そ、それと、わたしの村、ハルス村を助けてください……」
そういって女性は上流の方を指さしたものの、瞼が閉じられていく。
「いかん! 目を開けろ! あきらめるな!」
イカルは言葉を投げかけ、応急処置を施した。
しかしこのままでは、いずれ死んでしまう。
イカルは泣き止まぬ赤児を抱き上げると、カフラの街に駆けていった。
母子は病院で診てもらい、命に別状はないという報告を受けた。
イカルに母子の容態を報告したのは、カフラの治安部隊の隊長だった。
イカルはカフラの治安部隊の隊長に、ハルス村について尋ねた。
隊長からみれば、イカルのほうが五歳ほど年下になるが、王都の治安機関の長官代理であれば、雲上の上司になる。さらにイカルは王都守護庁を任される貴族だけあって、実年齢以上の威厳があった。
いまイカルと話している隊長は、カフラに配置されてから初めて迎える貴人に緊張のいろを隠せないでいた。
「ええ、カナツク河の支流にある谷間の村ですね。確か村民のほとんどは行商人の村です」
二人は壁に掛かった地図でハルス村の位置を確かめた。
「あの母親の話からすると、村で何事か起こっているようだ。母親の意識が戻ってからでは間に合わん。わたしはいまからハルス村に向かう」
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