3人が本棚に入れています
本棚に追加
「その地域であれば、辺境伯領に近接していますが王家の直轄領ですので、自分たちの管轄です。ぜひ、お供させてください。長官代理おひとりで行かせるわけにはまいりません」
隊長はイカルに対する憧れの表情を隠さなかった。イカルは剣聖として全国に名を轟かせており、治安部隊の隊員たちがそうであるように、武術を嗜むものにとっては神のような存在だったのだ。しかも、仕事の上でも、最上位の上司を目の前にして、張り切らずにはいられない。
なによりも、イカルの、地位や名誉に似合わぬ気さくな人柄に、隊長は出会ってすぐに惚れていた。隊長もイカルに惹きつけられたひとりであった。
「いや、申し出はありがたいが、事の全容がまだ判らない。君たちはカフラの治安も放ってはおけまい。まずはわたしだけで行かせてもらう」
長官代理から、なかば命令含みで言われてしまっては、隊長としては退かずにはいられなかった。
「――承知しました。何か異常があれば、すぐにお知らせください」
「すまんな。ところで、君の名を教えてくれるか?」
「はっ! 自分はゲンブであります!」
「響きの良い名だ。それでは、ゲンブ君、頼りにしている」
そう言うと、イカルは準備もそこそこにハルス村に向けて出発した。
翌朝、ハルス村に到着したイカルは、村が閑散としていることに気づいた。
大きな屋敷の門扉が開いており、中から三人の兵士が出てきた。
兵士たちは通りのど真ん中に立つイカルの姿を見て、少し驚いた様子を見せたが、すぐに相手がイカルひとりだと判ると、
「おい、そんなところで何をしておる! 怪しい奴だな!」
最初のコメントを投稿しよう!