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国内の治安を司るイカルとしては、辺境伯の行為を見過ごすわけにはいかない。
「剣士様、村長のバンは殺されたりしませんよね」
「権利書がどこにあるか判った時点で、お前たちの村長は用無しだ」
「剣士様、お願いです! 村長をお助けください!」
「もとより、そのつもりだ」
と言って、イカルは目の前に集まった村人たちを見渡した。
残念ながら、大した戦力にはならない印象だ。
今後の展開によっては、規模の大きな戦闘になり得る、とイカルは考えていた。
「うむ――。手紙を書くので、カフラまで遣いを頼めないだろうか?」
「お安いご用で」
イカルは別室に入ると手紙をしたため、遣いの村人に渡した。
「カフラの治安部隊宛てと近隣に駐留するマガン大将軍宛ての二通ある。少し急いだ方がよさそうだ。無茶な頼みで申し訳ないが、すぐに出立してほしい」
手紙を懐に入れた村人は屋敷を飛び出て行った。
すぐさまイカルは残りの村人たちに指示を出し、ハイラル辺境伯の兵たちの来襲に備えるための準備を始めた。
村人たちは家屋を放棄し、川の対岸に渡り、小屋を拠点にして兵士を迎撃することにした。
イカルは老人や子どもたちを避難させ、弓矢を持った者は対岸の田畑に配置した。
つづいてイカルは石や岩の目を読める者を探し出し、上流の堰止湖に向かった。
堰止め湖と言われるその場所で、川をせき止めている岩は、イカルの背丈の倍ほどの高さがあった。
同じような大きさの岩が二つ並び、その隙間を土砂が埋めた状態だ。
「端的に言えば、合図に合わせてこいつを割ってほしい。できるか?」
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