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イカルの問いかけに、付いてきた村人たちは顔を見合わせた。
「やれと言われればやるまでですが、全体を見てみなければわかりません」
村人たちは岩肌を撫でたり、岩の上に登ったりして調査を始めた。
彼らの顔つきが仕事にとりかかる職人のように一変したのを見て、イカルは見学を決め込んだ。
やがて村人たちは相談を終え、一人がイカルの元に駆け寄ってきた。
「お待たせしました」
「いけそうか?」
「向かって右側の岩ですが、あらかじめ楔を何カ所か打ち込んでおけば、最後の一撃で粉々に砕けそうです」
「片方だけでも砕ければ、あとは水圧で決壊するな」
「間違いなく決壊します」
「よし、それで行こう!」
「承知しました!」
道具を取りに戻ると、村人が五十人ほど集まっていた。
その中に、少年が一人いた。
イカルは少年に近づき、「勇ましいな。怖くないか?」と声を掛けた。
「ええ、大丈夫です」と少年は気丈に答えたが、緊張しているのか、唇を舐める仕草をしていた。
イカルは少年の肩に手を置き、湖の見えるところまで連れて行った。
「わたしはイカルという。君の名を聞いてもいいかな?」
「私は、アトリです――」
イカルは頷き、「それでは、アトリ君」と改めて呼びかけた。
「君に頼みがある。非常に重要な役割だ。君が上手くできるかできないかで、村人全員の運命が変わる。わかるね」
イカルの真剣な表情に、少年は唾を飲み込み、ようやく頷いた。
「この対岸に山小屋が見えるね。君にはあの山小屋のそばにいてほしい」
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