辺境の嵐 (剣と仮面のサーガ)

9/14
前へ
/14ページ
次へ
 そう言うとイカルは懐から呼子を取り出し、少年の目の前にかざした。 「いいかい。このあと――たぶん明日になると思うが、必ず戦闘が起こる。そのとき頃合いを見て、わたしが合図を出す。すると、まず村の方でこの呼子が鳴る。その音がこの場所で聞こえたら、今度は君が湖の方に向かって、呼子を思い切り吹いてほしい。君が笛の音を届けてくれたら、この闘いは必ず勝てる!」  イカルは両手を少年の肩にのせ、ぐっと力を込めた。  力をもらった少年は、もう震えていなかった。 「よい顔だ。絶対に勝つぞ!」  イカルの言葉に、少年は力強く頷いた。  配置が一段落すると、イカルは街道筋に新たに見張りを立たせた。 「ちょっと、出かけてくる。体力のある者が交代で見張りに立ち、残りの者は今のうちに休んでくれ」 「どちらにお出かけで?」  村人たちはイカルがいなくなることを不安に思っていた。  「わたしが出かけているうちに、ひょっとするとカフラの方面から治安部隊が来るかもしれない。来たら、これを渡してほしい」と封書を渡した。 「イカル様、治安部隊が来るかもしれませんが、ハイラルの兵士たちも来るかもしれません。そのときは……」 「その心配はない。わたしがいまから行くのが、そのハイラル領だからな」 「げえっ!」  村人たちは驚愕した。  イカルは笑って、「心配はいらぬ。作戦の一環だ。ただの思いつきではない。お前たちを見捨てるつもりなら、最初からここに来たりはしないよ。なるべく早く戻る」  と言い残し、ハイラルの道に入っていった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加