2人の空の旅

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2人の空の旅

――――竜皇国。長く生きてはいるが、 実際に足を運んだのは数度だけだ。 理由は……さきに述べた通り、竜人が混ざりものを嫌うからだ。 竜皇が混ざりものであることを、受け入れもせず。 しかしながら、当代の竜皇は人間側の遺伝子を受け継いでいるにもかかわらず、竜皇として認められてしまい、さらにはその竜皇が選んだ番もまた、人間の血とエルフの血を受け継いだ混ざりものである。 血統主義を重んじてきた竜人への、何かの罰のようである。いや……ずっと、竜皇の片親の血をなかったことにしてきた罰であろうか。 「竜皇国ねぇ……国境で弾かれるかもな」 以前来た時は、アルダと一緒であった。アルダが強行したことにより、俺も、半竜人もまた、国境を跨ぐことはできたが。 竜皇が番と言えば、素直に通すのだろうか。竜皇もまた、混ざりものであることを、見た目がはっきりと告げていると言うのに。 「クロム、問題ない。それに飛んで行くからな」 「は……?」 リューイはそう言うと、バサリと背中の翼を広げる。そしてひょいと俺を抱き抱えると、一気に上昇する。 「……うわ、おいっ!」 「暴れないでください、クロム。暴れると落ちてしまう」 「結界の力で防御ましましにできるから、落ちても俺は死なん」 「……そんな……っ!せっかくこれなら、クロムを国まで逃がさず抱えて行けると思ったのに……!」 なるほど……?そうして俺を逃がさないつもりだったとは……。しかし俺の結界の力のことを考えなかったのは……詰めが甘いな。 「だが疲れるから、特別に暴れないでやる」 「それは……っ!ふふっ、嬉しいです」 リューイが嬉しそうに笑う。 お前がひとりで竜皇国に帰ってからのひとの気も知らないで……。 「まぁ、アルダの飛行よりは快適だな」 「は……?何故そこでアルダの名が出てくるんですか……?」 「昔、アルダもこうして俺を竜皇国に連れていったのさ」 こっちの方が速いだの何だの……。アイツは俺をいくつだと思っていたんだか。 「クロムを抱っこして空中飛行をするのは……ぼくが一番最初だと思ってたのに……っ」 おい、一人称が昔と同じに戻ってんぞ。 まぁそれはそれでかわいらしいが。 「悪かったって」 まさかそこまでしょんぼりするとは。当て付けが過ぎたか……? 「アルダよりもずっとずっと上手いんだから。自信持てよ」 「……何回ですか」 「……はぇ?」 「アルダがクロムを抱っこして飛んだ回数です!」 「……あーと……そんなに正確に覚えてねぇけど……数回……10回よりは少ない」 「じゃぁ、私はそれよりも多くクロムを抱っこして飛行しますから……!」 「そんなに張り合わなくても……」 「これは竜としてのプライドですから」 「分かった分かったって……」 まさか番の抱っこ飛行権まで気にするたぁなぁ……。 「これからは、アルダの……いえ、私以外に抱っこ飛行されたらダメですから!」 「お前以外じゃアルダしかいねぇよ」 「アルダもダメです!」 「分かったって。お前が妬くからって断る……と、逆に面白がってやりかねないな……」 「そんなぁっ!」 悲壮感に満ち溢れすぎだろ。おい。 「兄貴に通報しとくよ」 ハイエルフと竜人でも、やはり竜人の方が立場は上だが。でも多分……アルダが嫌がるのは、俺たちの師匠の母さんよりも……兄貴だな。うん、何か分かるんだ。だてに長生きしているわけじゃない。 「え……クロムの……お兄さん……?聞いてないです!」 「……え?言ったことなかったか?あっちは異母だから、マジもんの純血のハイエルフだな」 「その、エルフなら飛行はしないはずだから……抱っこは」 「んー……よく覚えてねぇが、俺のガキの頃はあったかもな」 俺がガキだった頃には、兄貴はとっくの昔に成人していたから。 「あと、添い寝も……」 「そんな……っ、クロムが添い寝を!?」 「違う、兄貴が俺に添い寝してくれたんだ。お前にもしてやっただろうが」 兄貴がいたから、お前も添い寝してもらえたんだぞ? 「でも……子どもの頃の話でしょう!?」 まぁ、お前もな。 「大人になってからはありませんよね!?」 「あるわけねぇだろ。添い寝してやったのはおめぇだけだよ」 「当然です……!」 何でそんなキラキラした目で見つめてくんだよ。 「それからこれからは……クロムと寝るのは私だけの権利ですからね!?」 「いや……そもそもいいとしして添い寝なんてしねぇよ」 「ふふっ。約束ですからね」 そう言うとリューイは上機嫌で俺を運び、もう深夜に差し掛かった頃、俺たちは竜皇国に到着した。 「検問はいいのか」 「竜皇と、竜皇と共にいるものは自動的にパスですよ」 「国境警備はそれでいいのか」 「竜皇にかなうものなどおりませんから」 だからこそ、止めることはできない。 まるで神さまのように、竜人は竜皇を崇め、絶対の存在とするのだ。
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