又右衛門、斬ってはならぬ

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「――偉そうな口を叩きおって。それでは聞かせてもらおうか。その根来寺ご自慢の万夫不当の忍術僧の一人が、みじめにも腕を切られて這う這うの体で逃げ延びてきたことについては、どう申し開きをするつもりなのだ」  そのことを言われると、法師どもはさすがに口を閉ざした。  なかでも一人、端に座り、片手を衣の袂に隠している法師がぎぎぎと歯を食いしばった。  ほとんど彼について名指しであてこすられたからである。 「ええ、一黙坊。上野介の護衛の忍びに腕一本くれてやったおぬしなら、さぞきちんと答えられるであろう。さて、どうだ?」  これまでに受けた嘲りを何倍もにして返そうと、堀伊賀守は残酷に訊ねた。  彼は知っていた。  一黙坊という根来僧が、つい昨日片手を喪って帰ってきたことを。  堀伊賀守の指示を聞かずに一黙坊が先走った結果である。
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