又右衛門、斬ってはならぬ

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 無礼な法師たちを貶めるためにならば、憎んでも飽き足らない相手を持ち上げることも伊賀守には苦でもなかった。彼は基本的に陰湿な男なのだ。 「……よいな、多少の時間はかかってもいい。すでに今更であるからな。いいか、貴様らの仕事はあの上野介をぐうの音もでぬほどに追い詰めるための材料を集めることだ。そのために土井さまは貴様ら根来同心をあの宇都宮城に送り込んだのだぞ。しかと胆に銘じるがいい。わかったら、さっさと上野介を失脚させい」  それだけを吐き捨てると、堀伊賀守は自分の与えられた屋敷の中へと戻っていった。  七人の僧形を残して。  次の瞬間には僧形の男たちは天へか地へか、いずこかへと姿を消していた。  まるで初めからそこには何もいなかったかのように。  ほんのかすかな血と硝煙の臭いを残して。  ……彼ら七人は、紀州藩の領内にある根来寺から来た、一言でいえば僧兵あがりである。  戦乱の時代に日本中の大寺大社に巣食っていた乱暴者ぞろいの中でも、あの第六天魔王織田信長でさえてこずらせたという意味で、根来寺の僧兵は有名であった。
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