又右衛門、斬ってはならぬ

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 これまでの城郭からさらに外堀三の丸を構築し、宇都宮城をこれまでの二倍に拡張したのである。天守閣をもつ名城を築き上げ、父の築いた大江戸には及ばずとも、宇都宮に小江戸と呼ぶにふさわしい町を作り上げるという野心を持っていたのだ。  意に反してとはいえ、中央の政から解き放たれた彼は精力的に宇都宮という小さな江戸をまたたくまに完成させていく。  なんと城主となってからわずか三年で、現在の宇都宮の基礎ともいえる町並みを作り上げたのである。  正純の凄まじいまでの実務能力は現代においても手放しで称賛されるべきであろう。  短期間に必要かつ十分な機能を持った新しい城と城下町をつくりあげ、利用できるものはなんでも利用し、変えるべきは変え、残すべきものは残すという柔軟な政策は正純が有能であったことの証左である。  こうして、正純の作り上げた宇都宮は長らくこの地域の中心となっていくのであった。    ……元和七年の初夏、宇都宮において城以外のすべての整備はほぼ終わっていた。  城下の町は近くの村からやってきたものたちで溢れ、ほんの数年前と比べても比較にならない活気に満ちていた。
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