又右衛門、斬ってはならぬ

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「そうじゃ、藍婆坊。いいことを思いついたぞ」 「なんだ、黒歯坊」 「今、名を挙げた阿含坊に上野介を失脚させるための材料を提供させるのだ。なんといってもおれたちより二年も早くここに来ているのだから、おれたちが胡乱な個所を見つけ出すよりもきっと早く済むにちがいない」 「なるほど、知恵がよく回るな、黒歯坊」  法師たちは互いの顔を見て、にやりと笑った。  不慣れな町での探索行をしなければならないと、ややだれていたところであったから、なおさらこの楽ができそうな思い付きに食らいつく。 「堀どのの言う、上野介を失脚させる材料を見つけるなどという面倒事には、最初から気乗りはしなかったのだ」 「そうだ。拙僧たちは根来の忍術僧なのだ。いくさで敵の大将を撃ち殺すことこそが我らの本懐だというのに、あの小物に従わなければならぬというのが甚だ気分が悪いわ」  会話を終えると、二人の法師は歩き出した。
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