又右衛門、斬ってはならぬ

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 ……阿含坊という根来同心も同様であった。  根来同心の中心人物であり、首魁であると目されているというのに、登城もせずに昼から酒をあおり、いつもしたたかに酔っていた。  熟柿くさい息を吐きながら、町中をおぼつかない足取りで練り歩く。  たまに町人に嫌な顔をされると、 「貴様ら、根来衆に対してそのような目つきをして許されると思っておるのかぁっ!」  と、喚き散らすまさしく厄介者であった。  そんな彼を見つけたのは黒歯坊であった。 「おい、阿含坊」  不躾に名前で呼び止められ、阿含坊は振り返った。  そこに懐かしい同胞を見つけ、顔をほころばす。 「おお、おぬしら!」  酔っぱらった頭に浮かぶ幻覚かとも思ったが、近寄って肩を叩いてみると、確かに実体があった。 「久しぶりだなあ、いつ、宇都宮に来たのだ。こんな陰気な町に」  実際はかなりの活気に溢れているのだが、城主との諍いが絶えない根来同心からすれば、そう見えるのだろう。  赤ら顔で近寄ってきた同胞に苦い笑みで、 「おれたちは根来の忍びだぞ。それだけで察せるであろう」 「――お、おう。藍婆坊」
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