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ふらふらと二の丸内の庭を歩む。
一人の供も連れていないというのは、まだ暗殺の危険があったこの頃の大名にはしては度を越えた大胆さであるといえた。
だが、彼らしい豪胆さが裏目に出る場合もある。
今がそのときであった。
背筋にどこからか冷たい氷柱が差し込まれたように感じた。
氷柱の正確な名は、人の視線という。
誰かが彼を観ているのだ。
一挙一動を窺っている。
(忍びか……?)
正純は即座に相手の正体を見破った。
気配の消し方、視線の強さ、息のひそめ方。
すべて彼がかつて感じたことのあるものだからだ。
(だが、あまり達者ではないな。……大御所様配下の奴輩には到底及ばぬ)
正純が相手の存在を見抜いたのは、並ならぬ忍びの術者とかつて遭遇した経験があるからである。
彼の観察をしているものは、並の武士ならば気づきもしないであろう相手であった。
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