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そこで初めて、お父様の目がこちらを見た。私と同じ紺色の目が、すっと細められる。
正直今すぐここから逃げ出したいけど、そんなことをしたら後が恐ろしい。
「この間、この国の歴史や文化についての本を読んだのです。」
お父様は何も言わず、ただじっとこちらを見ていた。
「その本がとても面白くて。ぜひ私も歴史文化を勉強したいと思ったのですが、家庭教師をつけていただくことはできませんか?」
なんとか声が震えることなく言い切った私は、じっと目を逸らさずにお父様の言葉を待つ。
時間にすればほんの一瞬だったのかもしれないけれど、私には何十分にも、何時間にも感じられた。
「分かった。近々シエルにつける家庭教師とともに手配しておく。」
よ、よ、よ、良かった。安堵で身体から力が抜けそうになる私に、現実はそこまで優しくなかった。
「それと、お前の婚約者が決まった。明日顔合わせを行うから準備しておけ。」
その言葉に再びピシッと固まった私を気にすることもなく、食事を終えたお父様が部屋へと引き上げていく。
呆然としている私を気遣うような言葉をシエルからかけられたような気がするけれど、正直きちんと反応できていたかは怪しい。
夕食をどう終えたかもよくわからないまま、気づくと自分の部屋でベッドの上にダイブしていた。
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