別れと始まり

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 できるだけ急いで食堂へ向かったつもりだったけれど、ドレスでの移動というのは思ったよりも時間がかかるらしい。食堂に入ると、すでにお父様と義弟のシエルは食卓についていた。 「お父様、おかえりなさいませ。」  精一杯の愛情を込めた声で微笑んだけれど、お父様はちらっとこちらに視線をやっただけで、目も合わせない。  どうしよう、これは思っていたよりも厳しいかもしれない。  内心は緊張と恐怖で震えていたけれど、そんなことをおくびにも出さず優雅に席に座った……はず。    そしてそのまま誰も喋らないまま、静かにお祈りだけを済ませると、凍りついた空気のまま食事が始まった。    あまりじろじろ見るのも良くないとはわかっているけれど、私が前世の記憶を思い出してからはお父様を見るのも初めて。  食事をしつつも、こっそりとお父様のことを観察する。  お父様はとても美しい方だった。端正な顔つきというのはこんな顔のことを言うのだろう、と誰もが納得するような顔で、一切の表情を変えず鋭い視線を向けるものだから、少し、いや正直に言えばかなり怖い。美人の怒った顔は怖いというけれど、まさにそのとおりだ、ということを今身を持って感じている。  この人をお母様に似ている、というだけで絆そうというのはかなり無理があるんじゃないかしら。と今更ながら思ったけれど、もう後戻りはできない。この先のことを思えば勉強を始めるのはなるべく早いほうがいいし、次にお父様が帰ってくるのもいつか分からない。  やるしかないのだ、アストリア。    自分を奮い立たせると、思い切って声を出した。 「あの、お父様。食事中にごめんなさい。少しお話があるのですがよろしいですか?」  
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