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監督ラストミーティング
「みんな、お疲れ様でした。甲子園を目指して毎日遅くまで練習してたのに一回戦で負けてしまって、わたしはとても悔しいです」
未来はそこで言葉を切って目頭をおさえた。汗と涙を拭う。
未来の前に並ぶユニフォーム姿の大男たちもずっとすすり泣いている。
「でも、わたしの悔しさなんてあなたたちに比べたら小さなものだと思います。あなたたちはわたしなんかより長い間、厳しい練習をして頑張ってきていたんだから」
「カントクー」
誰かが泣きながら叫んだ。牧野なのか、高塚なのか、横山なのかわからなかったが、その言葉に胸がつまって、次の言葉が出ない。
また汗と涙を拭い、胸に手を当て落ち着いてから、また話す。
「たったの三ヶ月間だけだったけど、あなたたちの甲子園出場という目標を達成するために、わたしは役に立ちたかった。でもできなかった。最初にあなたたちから言われた通り、わたしでは力不足すぎました。あなたたちを手伝うどころか邪魔ばかりしてしまいました。ルールは知らないし、ノックするにもバットの持ち方すら知らない。そんなわたしのせいで、あなたたちに負担をかけてしまいました。本当にごめんなさい。監督がわたしじゃなければ、あなたたちは、この夏もっと勝てたかもしれない。もっと野球を楽しめたかもしれない。夢だった甲子園に行けたかもしれない。そう思うと、わたしは申し訳ない気持ちでいっぱいです。ごめんなさい」
未来はそこで深々と頭を下げた。
「カントクー」
また声が飛んだ。その言葉を聞いて、また感極まってしまう。涙が出てくるのをおさえる。
気持ちを落ち着かせてから話を続けた。
「でも、わたしは短い期間だったけどあなたたちといっしょに野球ができて幸せでした。あなたたちを見てて野球が大好きになりました。野球の難しさ、面白さをあなたたちから教えてもらいました。あなたたちといっしょに過ごせた日々は本当に幸せでした。本当にありがとう。そして、最後まで役立たずで本当にごめんなさい」
未来はもう一度深々と頭を下げた。汗と涙がポタポタと落ちる。
この三ヶ月間のことを思い出す。
頭を上げると、前に並ぶ大男たちもみんな顔をグシャグシャにして泣いていた。
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