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 大理石のようなオフホワイトの壁が、くすんだ日本の色彩とは異なる趣を漂わせる「古城」の前に女は腕組みをして(たたず)んでいた。  (かたわ)らで、周囲をスマホで撮っていた男が、 「いかにもって感じの建物だな」  としきりに(うな)っている。  探偵である2人は、行方不明者を捜索する案件で、何度か魔術信仰の宗教団体へ行きついていた。  ターゲットが黒魔術にどっぷりとハマり、宗教で安らぎを得ている面もあるため一概に否定はできない面もあるが、事件性がない結末にガックリしてしまうのだった。  明らかに違和感のある建物は、宗教団体絡みな場合もある。  黒いジャケットと、黒パンツの上田 莉子(うえだ りこ)は、インターホンの前に立った。 「ここの主は、あのトーイ製薬を一代で成功させた伊藤 敬一郎だったのだろう。  怪しい館に製薬会社って、怖い組み合わせだよな」  周囲の景色からは浮いて見える黒衣に身を包んだ井澤 健太(いざわ けんた)は顔を(しか)めた。 「(わたくし)、サクリファイズ・インカンテーションの上田と申します」  愛想よくちょこんとお辞儀をしながらカメラに笑顔を向ける彼女に、内心「魔術信仰してるキャラを演じろよ」などと思ったが、どうでもいいと思い直し井澤も後に続いた。  だだっ広いリビングには白いクロスをかけた大テーブルが(しつら)えてあった。 「いらっしゃいませ、ごゆっくりどうぞ」  ボディラインにピッタリとフィットした黒衣にレースをあしらって、洗練されたファッションの若い女性がシャンパンを勧めてきた。 「私は、メイドの石川と申します」  今どきリアルなメイドなどいるのか、と驚きの眼差しを向けると、彼女は遠慮なく向かい側に腰を下ろして席を勧めた。  そこへ50歳前後の女性が入ってくると石川は、弾かれたように立ち上がった。 「あら、いいのよ。  楽にしててちょうだい」  手で制して座らせたのは、敬一郎の妻である、麻美(あさみ)だった。  とりあえず、とシャンパンで乾杯して舌を湿らせると、早速(さっそく)切り出した。 「娘の彩花も、夫の敬一郎も、毎晩悪夢に苦しめられて、衰弱死したのです。  どう考えても、魔術が絡んでいるとしか思えません」  彼女自身も、最近深く眠れない夜が増えたと言うのである。 「あと一回、魔術で人が死ぬかもしれないと ───」  何の気なしに井澤が(つぶや)くと、彼女の顔が引きつった。
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