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 話が一段落すると、石川はキッチンへと下がっていった。  上田が後に付いて行こうとすると、 「仕事ですから」  と言いながら振り向いた顔に一瞬影が差した。 「その服、かわいいわね。  シュッとしてて、良くあるメイド服とイメージが違うけど、もしかして」 「私が作ったの」 「うわあ、(すご)いね」  などと話を盛り上げつつ、キッチンへ入り、皿を出したり食材をレンジで温めたりなどし始めた。  大テーブルにパンとサラダとハムなど、簡単なランチを並べると石川がもう一人の住人を連れて入ってきた。 「橙沢 茜(とうざわ あかね)です」  起きたばかりなのか、(かす)れた小さな声なので、上体を乗り出して聞き耳を立てた。 「橙沢さんは、帝都大学文学部の大学院生なんです」  補足した石川は言葉を切った。  ため息をついた麻美の表情がこわばった。 「へえ、私、小説が好きなんです。  おすすめの本とか、教えて欲しいな」  気さくに笑顔を向けながら上田が言った。  食事を済ませると、石川が部屋に案内してくれた。  2人は麻美から依頼を受けて、住み込みで調査をすることになっていた。  表向きは魔術に詳しい知人、ということにしていた。  リビングから玄関ホールへ戻ると、ゆるやかなサーキュラー階段が、入口から見て左手の壁沿いにある。
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