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 麻美の部屋は、敬一郎の書斎の向かい側にある。  夕食を済ませた麻美と橙沢、井澤が2階へ戻り、上田は石川と一緒にキッチンで片付けものをしていた。  敬一郎が亡くなったとき、警察に通報して調べてもらったが証拠が見つからず、病死とされていた。  そもそも、呪いで人を殺したとしても殺人の構成要素を満たさない。  必ず何かあるはずだが、警察に詳しい検死をしてもらおうにも、遺体はとうの昔になかった。 「そろそろ引き際か ───」  カーテンを開けて外の景色を眺めても、夜の帳が降りた後は街灯と一軒家の明かりがちらほら見えるだけだった。  そのとき、女の叫び声と物音が廊下に響いた。  廊下へ躍り出ると、麻美の部屋のドアが開いていて、彼女が呆然(ぼうぜん)とした顔で立っていた。 「伊藤さん、何か ───」  言いかけた井澤はその場に立ちつくした。  彼女の手には鮮血が(したた)るハサミがぶら下がっていた。  部屋の中を見ている彼女をすり抜け、中へ飛び込むと橙沢が胸から血を流して、あお向けに倒れていた。  駆けつけた上田が警察に通報すると、鷹山と朧月という刑事が息を切らせて駆けつけた。  同時に呼んだ救急車が彼女を運ぶ前に、現場の写真を撮ってから、麻美を連れて蕨塚署へ戻って行った。  探偵としての仕事は、一段落したところだったが、上田が意外なことを言った。 「花ちゃんが、部屋を見せてくれるって」  驚いて振り返ると彼女は奥の部屋へ向かって歩きながら、ついて来るように手で促した。  石川の部屋には、小さなテーブルがあった。  白いクロスをかけて、本物の燭台と、大小の皿やナイフが置かれ、陶器の天秤、魔法陣がかかれた箱など、華やかささえ感じさせる物が並ぶ。 「サクリファイズ・インカンテーションの関係者の方って聞いて、是非見てもらいたいと思ってたの。  儀式をやればやるほど、来世で幸せになれるからこんなに揃えちゃった」  仕事中には見せたことのない笑顔がこぼれ、宝物を()めて欲しい、とでも言うように一つ一つ手に取って見せるのだった。
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