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ピンクの蝶と花が舞う
中学校の卒業式を迎えた。教師も卒業生も在校生も、皆感極まった様子だった。
「ありがとう」
「お元気で」
「みんなの事、忘れないよ」
そんな言葉が最後の教室で飛び交っていた。いろいろな感情が溢れ、泣き出す生徒もいた。教師も泣いていた。
そんな中、自分はというと、至って冷静だった……。強いて言うなら、成績上位取得により、ご褒美として父親から買って貰ったゲームの事で頭がいっぱいだった。昨晩は大ボスの手前まで来た。そんな雰囲気だった。きっと今夜こそ決戦の時だ。負けられない戦い、それが正に今夜控えているのだ。卒業式どころではなかった。
それに、進学先の高校は中学校から見える小高い丘の上にある。それは、高校からも中学校が見える、見下ろせる事を意味する。通学路もさほど変わらない。余計に感動が薄れてしまったのだ。
皆の感動が一通り治まったところで、いつものように下校しようとした。すると、ある女子に声を掛けられた。
「ちょっと、いいかな……」
付き合ってちょうど一年間になる彼女だった。まぶたが腫れぼったい。きっと、お世話になった先生と後輩、異なる人生を歩む事になった友人への想いで感極まった後なのだろう。そして、その感極まる相手に自分は含まれていない……。それは分かっていた。
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