ピンクの蝶と花が舞う

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 彼女は一足先に推薦で志望校に合格していた。だからこそ、受験が終わっていない自分への最大限の配慮として、会うのを我慢していた。そこでふたりを繋ぎ止める唯一の手段、それが交換日記だったのだ。  嫌みのない献身的で健気な子だ。だからこそきっと、受験勉強の応援や、体を気遣ったり、面白い話で少しでも気が紛れればと考えたり……。読み飛ばしてしまった文章には、いろいろな想いが込められていたのだろう。  もしかしたら、返事が必要な大切な事なども書かれていたのかもしれない。しかし、もうそれを確認する術はなかった……。  こうして交換日記は終わった。中学三年生の冬だった。  その後、ゲームは手に入った。そして皮肉にも、彼女が推薦合格していたレベルの高い進学校に、一般受験で合格する事ができた。彼女からのお祝いはなかった。  そして卒業式当日、その関係は完全に終わった。  「中学生の成長は著しい。男子は主に身長が伸びる。女子は主に精神が育つ」と、そんな事を言った女性教師がいた。その話には続きがあった。「男はバカだ! 女子生徒諸君、男子たちの幼稚な考えや行動に辟易しないように」と……。今は安易にジェンダーでカテゴライズする事はないだろうが、当時はそういう時代だった。そしてそれが正に「言い得て妙」な事もあったのだ。  実際、恋はしていたと思う。ただ、その心は少年と青年の狭間で揺れていた。こちらの方が何年か先に生まれていて、別のかたちで出会っていたら、少なくともあのように残酷な方法で傷つける事は無かっただろう。結局、彼女と自分は、手を繋ぐほど近くにいたのに、お互いに違う精神世界を生きていたのだ。甘酸っぱい思い出、などといった表現では生ぬるい。罪深く、味わうにはあまりに苦い思い出だ。
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