ピンクの蝶と花が舞う

5/10
前へ
/10ページ
次へ
 「今度の夏祭り、一緒に行かない?」 そう誘ったのは彼女の方だった。地元の夏祭りだ。屋台も沢山出て、花火も上がる。よくあるデートだ。もう一組のカップルとのダブルデートになった。  ダブルデートは一長一短だ。四人もいれば多方面に会話が飛び交う。不意の沈黙に気まずくなる事は少ない。控え目な男子には打って付けだ。他方で、今以上に親密になる空気は作りにくい。積極的な男子には都合が悪い事もある。恐らく彼女が自身の筆無精ぶりに気が付き、そこから控え目な男子と位置づけたのだろうと考えた。  夕方、待ち合わせ場所の田舎の駅前に着くと、ダブルデートのもう一人の男子が既にいた。サッカーとゲームが好きな、至って普通の男子だ。気が合う仲間で、彼の家にゲームをしに遊びに行った事もある。 「お待たせ。遅くなってごめんね!」 ピンクの花や蝶が舞う布地が不意に眼前に飛び込んで来た。彼女は浴衣を着ていた。結われた長い髪はうなじを露わにしていて、微かに女性の色香を漂わせた。もう一人の女の子は藍色の浴衣でゲーム仲間の男友達にくっついた。  四人は田舎の駅前から寂れた商店街の方に向かった。彼女は自分の袖を掴んで。もう一組のカップルは手を繋いで……。  意外な事に、会話が思いつかなかった。隣の席の女子とは普通にお喋りが出来るのに、今、隣にいる彼女には言葉が出てこない。浴衣姿を見てから、何だか変だった。文才がないのは認めていたが、まさか自分が口下手だとは気が付かなかった。自分たちよりも少しだけ付き合いが長いもう一組のカップルが気を遣ったのか、いろいろと話題を振ってくれた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加