ピンクの蝶と花が舞う

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 この日ばかりは、普段は寂れた商店街も、屋台が軒を連ね活気に満ちていた。夕暮れ時の薄暗い中、屋台のイルミネーションと人混みが、騒がしくも賑やかに夏祭りを彩っていた。 「わたし、リンゴ飴食べたい!」 「それはデザートに取っておけよ! それに、どうせ食べきれなくて、すぐに押し付けてくるだろ。せめてあんず飴にしとけよ。それも後で! とりあえず今はたこ焼きな!」 「えー。今食べたかったのに……。りょーかーい」 目の前で高校生カップルのような、ちょっぴり大人なやり取りを見せられた。こんな軽妙なやりとり、今の自分には無理だと思った。 「たこ焼き、食べよっか!」 彼女が言ったので、いいねと頷いた。たこ焼きを買った。お小遣いを半分ずつ出し合って買った。  喜ぶ彼女の横顔が眩しかった。それに見とれてミスを犯した。割り箸を一膳しか貰わなかったのだ。人混みをかき分けてたこ焼き屋に戻るにも、人の流れに逆らう事になる。どうするかあたふたしたが、それを見て彼女が笑った。 「別に、ふたりで一緒に使えばいいじゃん」 人混みではぐれないように袖を掴んでいた彼女の手が、自分の手の平と重なった。そして彼女は言った。 「付き合ってるんだし」 夏の暑さと屋台の熱気と人混み、理由はそれだけではなかった。ひどく赤面した。
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