ピンクの蝶と花が舞う

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 六つのたこ焼きを分け合って食べた。その為に、一度繋いだ手を離した。汗だくだった。自分の汗だ。いくら文才がなく、その日に限ってはなぜか口下手な自分でも、それを「美味しい」と表現する事はできた。 「たこ焼き、美味しいね」 「そうだね!」 「でもなんか、タコ小さいかも……」 余計な事を言ってしまったと思った瞬間、自分の口元を彼女の指が触れて、やさしく滑った。 「マヨネーズ、付いてた」 そう笑う彼女が真っ直ぐ見つめて言った。 「でも美味しいよ。一緒に食べてるから、かもね!」 「そうだね」 そう返した。  しばらくすると、腹の底まで響くような大きな音と共に夜空が光った。花火だ。尺玉といった大きな花火だ。近くだと迫力がある。気が付けばすっかり暗くなっていた。そんな事に気付かない程に、彼女に夢中になっていたのかもしれない。 「きれい……」 そうつぶやき、それ以上彼女は何も言わなかった。こんな時、何か気の利いた一言でも言えれば良いのにと思った。いつもなら泉のように湧いてくる女の子との会話の返し、それが真っ白になって何も出てこなかった。  動揺だったのだろうか。たこ焼きを一つ落としてしまった。これでたこ焼きは奇数になった。最後の一つを譲り合った結果、二人で半分ずつ食べた。タコは彼女に譲った。
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