ピンクの蝶と花が舞う

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 気が付けば、もう一組のカップルがいない。はぐれた時の集合場所は決めてある。そこへ向かおうとした瞬間、人混みの向こうでカランカランと乾いた金属音が鳴り響いた。 「おめでとうございます! 大当たり!」 誰かがくじ引きで一等を引き当てたらしい。 「行ってみようか」 そう言って彼女の手を引いた。今度は自分から手を繋いだ。人混みの中を縫うように進むと、そこにいたのは、探していたもう一組のカップルだった。 「やった! 念願のゲーム!」 そう言うと、友人は景品を高々と掲げてこちらに見せた。それは正に自分が勉強のご褒美として欲していたゲームソフトだった。 「うわー凄い凄い! やったじゃん!」 図らずも、その日ずっと扱いが分からなかった全ての感情が、そこで解き放たれた。そこには、その日で一番活き活きとした自分がいたと思う。その友人と熱い抱擁を交わし、まるで自分の事のようにはしゃぎ、喜んだ。その様子が、女の子二人にどのように映ったのか、今考えると少し怖い。  その後は上の空だった。自分が全てを勉強に捧げる唯一かつ最大の理由であるゲームソフト……。それを、偶然にも、今日その友人は手にしたのである。気が気ではない。自分も早く成績を上げなければ話題について行けない。何より、嫌でもネタバレという魔の手が迫ってくるのだ。そう、夏祭りどころではない、帰って勉強しなければという焦燥感に駆られた。
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