ピンクの蝶と花が舞う

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 帰り道は興奮する男友達との会話が盛り上がった。気が付けば、ダブルデートが男ふたりと女ふたりの友情デートに変わっていた。女の子ふたりは大きなリンゴ飴を分け合って食べていた。 「女の子の気も知らないで、男ってマジでバカ!」 そんな声が聞こえたような気がした。  夏祭りから一ヶ月ほど経った頃だった。ダブルデートのもう一組のカップルが別れたという噂を耳にした。その当事者である本人には何も聞かなかった。友人として、せめてもの気遣いである。  そしていよいよ時間が無くなった。秋の足音も迫ってきた頃、定期テストも残すところあと数回という状況だ。もうチャンスは多くなかった。がむしゃらに、必死に、命を掛けるように勉強に明け暮れた。  そんな状況だ、ただでさえ少なかった交換日記の文字数が次第に少なくなる。そして、最終的には、いよいよ白紙提出という事態に陥った。 「忙しいよね……」 いつしか、それが彼女の口癖になっていた。相変わらず彼女の日記は、読みやすく、整然と、しかし感情豊かに、ページ一杯に書かれていた。そしてこれまた相変わらず、枠外の空白は沢山のピンク色の蝶と花で埋め尽くされていた。  書けないから、せめてきちんと読もう。最初はそう思っていた。ところが、ゲームへの執着という名の中二病にも似たその病は、とうとう、それを読む事すら、やめさせてしまった。受験勉強のシーズンであったがそれは関係なかった。一方通行の、決して届く事のない交換日記が何度も往復した。 「私の想い、もう届かないね……」 ある日、いつものように交換日記を白紙提出すると、涙ながらに震えた声で言われた。廊下を駆け出すその背中に、かけてやれる言葉は何もなかった……。
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