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その後、佐野の様子がどうなったかは分からないまま、病室には入れてもらえず帰るしかなかった。
どうしよう、何がどうなったのか分からない状態はすごく不安だ。
(すごく苦しそうだったけど…大丈夫だよね。)
去年から、いつも鞄の中にこっそりと入れている佐野からもらったびいどろ玉を、縋るように握りしめた。
『夢が叶うことを、願う』
今、願掛けをする人の気持ちが痛いほど理解できる。
祈るくらいしか僕に出来る事なんて何もないと痛感して、その無力さが不甲斐なく、腹立たしくもあった。
明日も明後日も、会えるのが当たり前だと思っていたのに会えないかもしれない。
それがとても怖い。
まだ、『好き』だと伝えられていないのに。
(……大丈夫、大丈夫。)
僕がぐらついてどうする、と自分に鞭を打つ。
少しでも強く、笑顔で。
楽しい話をいっぱい用意しておこう。
しかし、次の日になっても面会は出来なかった。
その次の日も。
また次の日も。
不安に押しつぶされそうな僕に、穂高くんが毎回声をかけてくれたが、穂高くん自身も顔に不安の色が浮かんでいた。
やっと病室に入る許可が出たのは、5日が経った頃だった。
久々に見た佐野は、ベッドに横になったまま身じろぎ一つしなかった。
「佐野!」
慌てて駆け寄ると、薄らと力なく目を開いた。
「…また大泣きしてんの。」
ゆっくりと話すその言葉にも、今までのような覇気がなかった。
「佐野の顔見れたんだもん、これは嬉し泣き。」
「じゃあ、今日はこの前のデートの続きをしよ。」
そっと手を伸ばして僕の頬に触れながら、佐野が小さく笑った。
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