夏の想い出

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◆◆◆ 困った事になった…。 添い寝事件だけでなく、唇奪われ事件まで起こってしまった。 公園でいきなり佐野にキスをされた時、あまりの驚きに固まってしまった。 何も言えないでいると、『変な顔』と笑ってバスケに戻っていった。 あれからもう一週間ほどが経つ。 思いっきり意識してしまっている僕とは違い、いつも通りの佐野。 本当にこの生き物は何を考えているのか全く分からない。 (…もしかして僕、揶揄われてる?) そうだとしたらムカつく。 聞きたいけど、中々聞く勇気が出ない。 結局今日も何も聞けず、隣の席の佐野を意識しまくったまま一日が終わってしまった。 学校にいると心が乱れるから、さっさと帰ろうと鞄に手をかけた時、佐野の方から話かけてきて心臓が跳ねた。 「月島、今日勉強会してかねぇ?」 「えー、えっと…。」 どうしようか…。 教室をちらりと観察してみる。 今日は他の人たちも帰り支度をしていて、飛び入り参加はなさそうだ。 という事は、二人きりになってしまう。それは気まずい。 今日は断ろうとした時、佐野を呼ぶ声がした。 教室の入り口を見ると、穂高くんが立っている。 「大和ー、先生呼んでる。日誌まだ出してねぇべ。」 「あー、そういや俺日直だわ。」 そう言って怠そうに教室を出て行った。 正直、安心した。 今の内に帰ったらダメかな。後で文句言われるかな。 悩んでいる僕のところに、穂高くんが寄って来た。 「月島、今日は帰んの?」 「うん、その予定。」 ふーん、と言いながら、僕の方をじろじろと見てくる。 何だろう。僕何かしたっけ。 「…あのさぁ、ノーデリなこと聞くけど、大和と月島ってヤッたん?」 「えっ!」 突飛な質問に、つい大きな声が出てしまった。 しまった、まだ教室には人がいる。慌てて声を落とした。 「ちょ、どういう事?そういう関係じゃないよ…!」 「いや、公園行った日あるじゃん?俺、お前らがキスしてんの見ちゃったんだよね。バスケしてて丁度そっちに体向いてたから。」 「…そうだったの?」 「そっから月島は佐野に対してよそよそしいし、めっちゃ意識してるみたいだったから、ヤッたんじゃねと思って。」 「してない!本当にしてないから…!」 まさかそういう風に見えていたなんて、本当に恥ずかしい。 今顔が真っ赤になっているだろうなと自分でも分かるくらい、体全体が熱かった。 「…可愛い顔になってんぞ。そんなに照れんでも。」 「照れてない…。そう見られてたのかと思うと、恥ずかしい。」 面白がっているのか、僕の顔を覗き込みながら、穂高くんは『良いこと教えてあげようか』と囁いた。 「あいつ手ェ早いからすぐ体の関係に持っていくんだけど、月島はキスまで済ましたのにまだ誘われてないんだろ?大事にされてるよ、それ。」 「…大事に?」 「そう。まあ、もし何か意地悪されたら俺に言いなさいね?大和をいじる良いネタになるから。」 それだけ言うと、穂高くんは自分の席から鞄を取って帰ってしまった。 その後すぐに佐野が戻って来たが、真っ直ぐに彼の顔を見ることが出来なくて、不審がられてしまった。 だって、あの佐野が僕を大事にしている? それはないと思う…、うん、流石にないはずだ。 そうは思うが、一方でどこか喜んでいるもう一人の自分もいて、頭の中は大混乱だった。
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