びいどろ玉

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びいどろ玉

7月に入り、教室の窓には誰かがふざけてぶら下げた風鈴が鳴っている。 冗談のつもりだったらしいが、先生は思いの外気に入り、このクラスだけ涼しげな音に包まれながら授業をしていた。 そんな夏の日の、ある長休み。 「月島もお祭り行かん?」 隣で佐野たちが夏祭りに行く計画を立てて騒いでいた時、突然僕にお誘いの声がかかった。 誘ってきたのは佐野だ。 どうやら来週の土曜に、地元のお祭りがあるらしい。 「…あの、佐野たちと一緒にって事?」 「俺たち以外他に誰がいるん。」 佐野と一緒にいる女子たちが騒ついた。 それもそうだろう。 まさかザ・普通の平凡男を、あの佐野が誘っているのだから。 正直言うと、お祭りなんていうものは僕には縁のないものだった。 お祭りに限らずハロウィンも、クリスマスも、バレンタインも、いつもと変わらないただの平日。 友達らしい友達もいなかったから、気にしたことはなかった。 でも、最近ちょっと欲張りになっているみたい。 正直行ってみたい、けど、本当に良いのだろうか。 「行くだろ?」 「えーっと…。」 「行くな?はい決まりー。」 困って穂高くんに目線を投げて助けを求めれば、『別に良いじゃん。楽しもうぜ』と言われてしまった。 その後、皆が席に戻り始めてから、佐野が不思議そうな顔をして僕を覗き込んできた。 「何でそんな不細工な顔してんの?」 「うっわシンプルな悪口言ってくるじゃん。」 「ごめんて。で、何で?祭り嫌だった?」 「…ううん、それは行きたいと思ったんだけど。」 「だけど?」 「佐野たちのグループに僕って、浮かない?皆の邪魔にならない?」 「ハッ、そんな事。」 鼻で笑われた。 僕にとっては結構大きな事なのに。 「よし穂高、説教してやれ。」 「また月島が普通に目を合わせてくれるようになって嬉しい佐野くんは、休日もお前の顔が見たいんだと。」 「違うねぇ。適当言うの止めてくれる?」 思いきり足を蹴られた穂高くんは、痛みに机に突っ伏してしまった。 穂高くんの言う通り、確かにここ最近まで佐野と目を合わせられなかったけど、それは穂高くんが変なことを言ったからだ。 だから穂高くんのせいでもある。 「マジメな話さ、邪魔とかなくない?もう友達みたいなもんなんだから。」 「友達…。」 「そっ。だから声かけるのは当たり前。」 友達。 …キミは友達にキスをするのかい。 もしかして、キス魔です、とかふざけた理由ではないよね? (…いや、でもこれはチャンスかもしれない。お祭りの雰囲気に呑まれれば、そのテンションで聞けるかも。) 上手くいくかは別として、これは我ながら妙案だと思った。
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