びいどろ玉

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お祭りは、地元の中でも大きな規模のものだった。 出店は途切れることなくずっと先まで連なっているし、道行く人たちは皆おしゃれだ。 特に女性たちは綺麗な浴衣を着て気合が入っている。 それに比べ、僕の服装は半袖Tシャツにどこにでも売っていそうなスラックス。あまりの場違い感に、ちょっと落ち込んだ。 ちらりとクラスメイト達を見れば、皆おしゃれでキラキラしている。 その中でも佐野は白いワイシャツが驚くほどに似合っていて、その容姿も相まって注目の的になっていた。 「ねぇ、20時に花火上がるって!皆で見ようよ。」 佐野の隣で、ベータの男の子…確か高木くんだったと思う…が嬉しそうに言った。 その情報につい顔が緩んだ。 花火なんて、遠くから音を聴いたことがあるくらいだ。 それを今日は間近で見られる上、なんと一人じゃない。 そう思うと、段々と気持ちが浮上してきた。 花火が上がるまでの時間は、皆と屋台を巡って食べ歩きをした。 フランクフルト、焼きとうもろこし、わたあめ。 中でも一番、りんご飴がとても綺麗で心が惹かれた。 なんだかサクランボにも見えてくる。色も可愛い。 甘いりんご飴を堪能していると、ふと隣に高木くんが並んだ。 「月島くん?だっけ。」 「あ、うん。君は高木くんだよね。」 「僕の名前は別に覚えなくていいよ。」 その無機質な声色と表情に、彼が僕を歓迎していないことを察した。 それでもわざわざ声をかけてきたという事は、コミュニケーションとかではなく、何か言いたい事でもあるのだろう。 何を言われるのだろう、と不安になった。 「佐野とどういう関係?」 なるほど。 高木くんは佐野のことが好きらしい。 「…どんな関係でもないよ。ただのお隣さんで、そのよしみでよくしてもらってるだけ。」 「ふーん。可哀想なぼっちクンの面倒見てあげてるんだ、佐野。」 こういうの、何て言うんだっけ。 ちくちく言葉?いや、ちくちくを通し越してとげとげしている。 「まあ自覚してるみたいで安心したよ。 佐野って美食家なのにゲテモノ喰いもするタイプだから、そのゲテモノが勘違いするんだよね。ああ、僕って美味しいんだーって。」 「そっか。高木くんも勘違いしちゃったタイプで、自分みたいに僕が傷つかないように教えてくれたんだね。ありがとう。」 それだけ言うと、小走りで高木くんから逃げた。 僕の嫌味を理解したらしい高木くんの怒りを含んだ声が後ろから聞こえてきたが、もちろん無視した。 まあ、彼も嫉妬して意地悪なことを言いたくなるくらい佐野のことが好きなのだろう。 でもそれで攻撃してくるなら、自分も反撃される覚悟を持たないと。 「なに怖い顔してんの?」 一難去ってりんご飴にまた齧りつこうとしたら、佐野が声をかけてきた。 「…いや、佐野は美食家だねって話をちょっと。」 「それで怖い顔になる意味が分かんねぇや。美食家でもねぇし。」 佐野は何だそれ、と笑った。 「不機嫌そうな月島にこれやるよ。さっき穂高たちと買ったヤツ。」 そう言って取り出したのは、ビー玉のようなものだった。 透明で、薄い千草色をしている。屋台の電球の明かりが反射して綺麗に煌めいていた。 「きれー…。これ、ビー玉?」 「びいどろ玉だって。まぁ、同じようなもんだとは思うけど。」 「…本当にもらっていいの?」 「どうぞ。色に意味があってさ、それは『忍耐』だって。夢が叶う事を願う、らしい。頑張り屋の月島にぴったりだろ。 穂高なんて純粋を意味する白だぜ。笑えねぇ?真逆だろ!」 ケラケラと笑う佐野の横で、にやける顔を抑えるのに必死だった。 だって、こんな事されたら嬉しいに決まってる…! 佐野からしてみたら、友達とノリで買ったものをノリでくれただけなのだろう。 でも僕は単純だから、こんな事ですぐ浮かれてしまうんだ。
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