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イカ焼きの誘惑に勝てず買いに行った佐野を見送った後、しばらくの間びいどろ玉のそのじんわり冷たい感触を楽しんでいた。
(ストラップだからどこかに付けておこうかな。やっぱり鞄かな。)
いや、それだとあからさま過ぎるだろうか。
…だめだ、佐野に毎日いじられそうだ。
それにしても、佐野は何故僕にくれたんだろう。
他にもあげる人なんているだろうに。
新しく『友達』認定されたから?
(…あっ、そうだ。今日の目的を達成しないと。)
『友達』で思い出した。
浮かれ気分もそろそろ終わりにして佐野に聞かないと。
やっぱりドキドキするけど、今ならいけそうだ。
どこにいるだろうかと辺りを見回すが、人混みのせいで直ぐには見つけられない。
近くにいた穂高くんにも聞いてみたが、『誰かと抜け出したんじゃね』と適当に返事をされてしまった。
探し始めて十分くらい経った頃、高木くんが声をかけてきた。
「…佐野探してるの?」
「あ、うん。」
「あっちの休憩スペースに行ったっぽいけど。」
「…何か企んでる?」
さっき言い合いをしたばかりだ。
素直に受け止めるのは怖い。
「あのねぇ…僕もあの佐野が本当に平凡を相手にするとは思ってないのよ。さっきのはアンタに釘刺しておきたかっただけ。もういじめられたから満足。」
「それはそれはご丁寧にどうも。」
高木くんが本当の事を言っているかは分からない。
しかし、行ったところで害がある訳でもなし…とりあえず行ってみようかと思い、休憩スペースに向かった。
立ち歩きに疲れた人が座れる、簡易的に作られた広場だ。
着くと、そこはもう満席状態で、探すのに一苦労だった。
しばらく辺りを見渡したが、佐野らしき人は見当たらない。
(…いないか。一旦皆のところに戻ろ。)
皆と居れば、その内戻ってくるだろうから会えるだろう。
そこから二人きりに持ち込むのは難しそうだけど、まあ仕方ない。
諦めて踵を返して来た道を戻ろうとした時、体に違和感が走った。
全身がざわりとして、血がどくどくと脈打ち始めている。
足を止めて自分の体の様子を窺うが、どんどん悪化しているのが分かった。
これ、何だ?
今までこんな事はなかった。
ひとまず何処かに座って休もうと、出店の裏側に向かった。
木が生えていて、薄暗い。これなら人目につかないだろう。
(まさか…違うよね…?)
ふらふらと歩きながら、嫌な予感が当っていない事を願った。
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