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「大丈夫か?」
月島の背中を支えて起こすが、荒く息をするだけで返事はない。
もしかして手遅れだったかと思い観察してみる。Tシャツは乱れていたが、下は脱がされた形跡はなかった。
俺たちの様子を見ていた男が、苛立たし気に立ち上がった。
「何だよ男いんのかよ。言っとくけど頸にガードも着けないでフェロモン垂れ流しで歩いてるコイツが悪いだろ!」
「アンタの保身のための言い訳とかどうでもいいわ。逃げたいなら逃げな。」
まだ何か言いたげだが、写真を撮ってやると慌てて去って行った。
月島からの同意があれば後で警察にでも出そう。
スマホを仕舞いながら再度月島に声をかけてみたが、話すのも精一杯といった感じだった。
「お前、こうなるの初めて?」
「…うん。…これやだ、怖い。」
やっと目が合った月島は涙を滲ませていた。
正直、その顔で見つめられるのは破壊力があった。
今回が初めてだからなのか、そこまで強い香りではないが、そのフェロモンに俺だって刺激を受けてしまっている。
理性が効いている内に、月島のスマホから家族に連絡して迎えに来てもらおうか…と考えていたら、月島が袖口を握ってきた。
「佐野、行かないで。助けて。」
「…お前の家族呼ぶから。それまではいてやるよ。」
「家族は嫌い…!佐野が良い。」
必死に縋りついてくる月島を見ながら、何て答えたら良いか困ってしまった。
今は体の熱に浮かされて譫言を言ってしまっているだけ、ということは分かっている。
「お願い…!」
服を握る手がさらに強くなる。
ついにぽろぽろと涙まで溢れ始めた。
正直その手を振り払える程、俺の理性は残っていなかった。
「…俺の首に手ェ回せるか?」
素直に言う通りにする月島を抱えて、その場を離れた。
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