びいどろ玉

5/6
前へ
/20ページ
次へ
「大丈夫か?」 月島の背中を支えて起こすが、荒く息をするだけで返事はない。 もしかして手遅れだったかと思い観察してみる。Tシャツは乱れていたが、下は脱がされた形跡はなかった。 俺たちの様子を見ていた男が、苛立たし気に立ち上がった。 「何だよ男いんのかよ。言っとくけど頸にガードも着けないでフェロモン垂れ流しで歩いてるコイツが悪いだろ!」 「アンタの保身のための言い訳とかどうでもいいわ。逃げたいなら逃げな。」 まだ何か言いたげだが、写真を撮ってやると慌てて去って行った。 月島からの同意があれば後で警察にでも出そう。 スマホを仕舞いながら再度月島に声をかけてみたが、話すのも精一杯といった感じだった。 「お前、こうなるの初めて?」 「…うん。…これやだ、怖い。」 やっと目が合った月島は涙を滲ませていた。 正直、その顔で見つめられるのは破壊力があった。 今回が初めてだからなのか、そこまで強い香りではないが、そのフェロモンに俺だって刺激を受けてしまっている。 理性が効いている内に、月島のスマホから家族に連絡して迎えに来てもらおうか…と考えていたら、月島が袖口を握ってきた。 「佐野、行かないで。助けて。」 「…お前の家族呼ぶから。それまではいてやるよ。」 「家族は嫌い…!佐野が良い。」 必死に縋りついてくる月島を見ながら、何て答えたら良いか困ってしまった。 今は体の熱に浮かされて譫言を言ってしまっているだけ、ということは分かっている。 「お願い…!」 服を握る手がさらに強くなる。 ついにぽろぽろと涙まで溢れ始めた。 正直その手を振り払える程、俺の理性は残っていなかった。 「…俺の首に手ェ回せるか?」 素直に言う通りにする月島を抱えて、その場を離れた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加