すずろ

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すずろ

「おいコラ大和、てめぇふざけんなよ。」 次の日の日曜、わざわざ俺の家にまで来た穂高に開口一番頭を引っ叩かれた。 理由はもちろん、昨日のことだ。 「ちょ、本気で殴んなよ。朝イチで電話して謝ったじゃん。」 「いやまずは殴るだろ。お前が勝手に帰った後大変だったんだぞ。大和に気がある奴がいるのは自分でも分かってんな?」 「まあ、それは。」 「そいつ等がすげぇうるさかったんだからな。お前と一番仲良いと思われてるらしくて皆んな俺に聞いてくんの。マジでだるい。」 どうやら、何で佐野は帰ったのか、佐野と月島はどういう関係なのか質問責めにあったらしい。 まあ、月島を探しに行って二人とも帰って来なければ、皆んな想像することは同じだろう。 「悪かったって。正直言うと連絡入れる余裕なかった。」 「…月島とヤッたんだろ。どういうタイミングで盛り上がってんだよ。花火観終わって解散してからじゃ駄目だったの。」 「あー…いや、」 あいつがオメガであろう事はきっと穂高も気づいてはいると思うが、俺の口からはっきり言ってしまって良いものか悩み、口篭った。 穂高はそんな俺の顔をじっと見た後、諦めたようにため息を吐きながら俺のベッドに腰掛けた。 「まぁ無理に話さなくていいけど。つーか大和って面食いな訳じゃなかったんだな。月島、結構普通の子じゃん。」 「いや、クソ可愛いぞ。俺にだけ懐いたあの感じとか特に。」 穂高が少し驚いた顔をした。 「大和がそう言うの珍しいな。お前ら付き合い始めたって事…だよな?」 「いや、付き合わない。」 「…いやいや、月島ってそういうタイプじゃないだろ。ウブっぽさがあるっていうか。 少し前から大和のこと意識してたっぽいし、月島からしたら『佐野と両想いだー』って今浮かれ気分だと思うんだけど。 大和がそういうの気づかない訳ないだろ。」 分かってる。 だから、昨日「やらかした」と思った。 オメガのフェロモンがきっかけだったとは言え、割り切った関係に出来るはずもないのに肌を重ねてしまった。もっと情を抱くに決まってる。 「…まあ、俺が悪い。今度月島と話すつもり。」 きっと月島を泣かせることになる。俺も泣かせたい訳じゃない。 でも、無い未来を今の感情だけで期待させていいのか? 俺は良いだろう。今を存分に楽しんだ後、勝手にこの世から居なくなるんだから。 でも、月島は? それこそ、もっと傷つけてしまう。 今ならまだ浅い傷で済む。 「大和はその辺り上手いことやってると思ってたんだけど。お前も選択ミスる事があるって分かって同じアルファとして安心するよ。 とりあえず月島が可哀想。」 「…うん、それでさぁ、穂高にお願いがあるんだけど。」 「なに。」 「月島のこと、気にかけてやって欲しい。俺、きっと泣かすことになるから。」 「…泣かせない方向で収めるつもりはねぇんだ?」 「これが最善。悪いんだけど、今は理由は言えない。」 穂高はしばらく何かを考えているようだったが、『分かった』と承諾してくれた。 「まぁ悪友からの滅多にない頼みだしな。貸しイチな。」 意外と周りの様子に敏感なタイプの穂高なら、月島のことを任せておける。 何かあってもそつなくフォローしてくれるだろう。 月島の傷ついた顔を想像してやるせない気持ちになりながら、部屋の窓から外を眺めた。 季節はすっかり夏だ。 雲一つない清々しい青空に、俺の嫌な部分を見透かされているような気がして、思わず目を逸らした。
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