夏の想い出

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夏の想い出

それから慌ただしく毎日が過ぎ、入学してからあっという間に一カ月程が経った。 俺の通う学校は、自慢したい訳ではないが進学クラスである。 中学時代、入院する度にヒマを持て余していた俺は病室で勉強していたからそのお陰だと思う。 最初の数日の内はやっぱり、進学出来る可能性なんてほぼないのにこのクラスでいいのかと考えたりもしたが、個性豊かなクラスメイトのおかげでそんな不安も吹っ切ることが出来た。 休み時間毎にパンばっかり食べてるパン好きとか、美人だけど実は怒ると超怖いマドンナとか、猫好きの動物博士とか、本当に様々だ。 最近話すようになった隣の席の月島 宝も、ヒマさえあれば机に突っ伏して寝ている睡眠バカで、今日も相変わらず眠そうにしている。 そんな彼を目覚めさせたのが昼休みを告げる予鈴の音。 4限が終わるとムクリと静かに覚醒するのだ。 ざわざわと騒がしくなった教室の中で月島が背伸びをした。 「まーた寝てんのかお前は。」 「佐野…、僕は成長期なの。」 「その割にチビのまんまだな。」 「何でお前はそう勘に触る言い方するかな!」 生意気でアホ。口を開けば言い合いばかり。 とても仲が良いとは言えないお隣さんだ。 「そういや佐野、この前先輩と修羅場ってたでしょ。」 「あー?」 「また手でも出して揉めた?」 そう言われ、自分の記憶の中を探ってみる。 そういや迫られたオメガと一夜のオアソビをしたっけ。 それで『僕たち付き合ってるんだよね?』と彼氏面されて、『んなワケ』と鼻で笑ったら思いっきり頬をぶたれた。 「あー、あの勘違いオメガね。」 「お前って本当最低だな…。」 「覗き見してる宝クンも最低だと思うけど。」 「うっさい!見たくて見た訳じゃない!学校で揉めてるお前が悪い!」 そう吐き捨てながら月島は鞄の中からお弁当を取り出すと、わざとらしく俺に悪態をついて教室を出ていった。 本当に可愛くない。 容姿だって平凡顔なんだから性格くらい可愛げがあった方が良いのに、と頬杖を付きながら月島の背中を見送った。
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