すずろ

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そうだ、佐野はそういう最低最悪の性格の持ち主だったじゃないか。 でも、どこかで期待していた。 どこかでお互いに歩み寄れてたと思ってた。 「月島のことは嫌いじゃないし、早めにはっきりさせておいた方が傷つけないかと思って。 普段は面倒だから自分からこうやって話すことは無いんだけど。」 淡々と話し続ける佐野に、少しずつ責めたい気持ちが湧いてきた。 やっぱりもっと早く聞いておくべきだった。 じゃなきゃこんな事にはならなかったはずだ。 「…じゃあ、何で保健室のベッドで僕のこと抱きしめて寝てたの?何でキスしたの?何で優しくしたの?」 「月島が可愛いと思ったからだよ。でも、それは他の子にも思うことだし、他の子と同じように興味が湧いたってだけで、特別好きになった訳じゃない。」 言い淀むこともなくさらっとそう言う佐野に、涙が浮かんできた。 前に穂高くんが言ってくれた『月島を大事にしてる』は、まるで見当外れだったみたい。 もう、ぽろぽろ出てくる涙を止める気も起きない。 「相手を選んで手を出すべきだった。俺が悪かった。本当にごめんな。」 それだけ言うと、佐野は立ち上がって行ってしまった。 もう最悪だ。 今までのは全部佐野の気まぐれで、それで勝手に僕は浮かれてて、お互い同じ気持ちかもなんて期待して。 『好き』って言葉さえ言わせてもらえなかった。 全てがどうでも良くなってひたすら泣いてたら、下の方から足音がした。 必死に涙を止めようとしていたら、穂高くんが顔を出した。 「穂高くん…。あ、ごめん、ここに用事あった?」 泣き顔を見られたくなかったし、何かあったのかと聞かれたくもなかった。 僕もここを離れようとした時、穂高くんに引き留められた。 「…いや、たまたまここ来ただけ。」 そう言いながら、指の背で僕の涙を拭い取ってくれた。 「……めっちゃ泣いてるじゃん。無理に教室戻る必要ないよ。しばらくここにいな。」 何も聞かずにそう言ってくれる優しさが今の僕には随分と沁みて、もっと涙が止まらなくなった。 これから佐野とどう接したらいいのか分からない。 楽しみにしていた放課後の勉強会だって無くなっちゃうかもしれない。 せっかく話せるようになった皆んなとも、少しずつまた関わらなくなってしまうかもしれない。 …こうやって佐野とも離れていくのだろうか。 それを想像するだけで、どうしようもなく胸が痛んだ。 恋心を自覚した途端に失恋。 僕の初恋はたったの一夏で終わってしまった。 いつか『良い思い出』に変わる日なんて来るだろうか。 この日以降、僕と佐野はほとんど会話をしなくなった。
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