君の本音、僕の後悔

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君の本音、僕の後悔

もう葉桜ばかりの並木の道に、まだ薄らと桜色の花弁が残っている。 入学して一年目が無事終わり、当時少し大きかった制服は、相変わらず体に合わない。 佐野と話さなくなってからと言うもの、また僕は勉強の虫に後退していた。 運動も遊びもしないでずっと机に齧り付いてはいたが、それでも多少は背が伸びるかと思っていた。 でも、あまりご飯を食べないことも影響して、体は中々大きくならなかった。 新しいクラスは、有難いことに佐野とは別だった。 もう友達なんて出来ない…というより、つくるつもりなんてなかったが、穂高くんとは同じクラスで、何かとあちらから関わって来てくれていた。 そんな春の香りがまだ残る、ある日の朝のホームルーム前。 僕の前席の主がまだ登校していないことをいい事に、穂高くんが朝の挨拶をしがてら座った。 「…月島さぁ、飯ちゃんと食ってる?」 「え、うん。食べてるよ。」 「なら良いけど。」 僕の席は窓側で、穂高くんは窓を開けて外を眺めた。 それに釣られて僕も外に目をやった。 校門には、まだ登校してくる生徒の姿がある。 校庭で朝練をしているサッカー部と陸上部の声が賑やかだ。 そんな朝の風景を二人してぼんやりと眺める。 「今日も大和は休みっぽいなぁ。」 ふいに耳に入ってきた名前に、一瞬どきりとした。 穂高くんは顔が広いというのもあって、他のクラスにも年中遊びに行ったりしているから、佐野ともまだ交友があるんだろうなとは思っていた。 でも直接その名前を聞くのは久しぶりだった。 「…そうなんだ。」 「うーん。最近あいつ休み多いんだよ。春だから気でも抜けてんのかね。」 何も言わずにいると、ちらりと僕の方に視線を投げた。 「…月島は大和とラインとかしてねぇの。」 「してないよ。」 「ふーん。」 穂高くんがまた外に視線を戻しながら言葉を続けた。 「あいつ休んでる時さぁ、俺がラインしても既読スルーされるか適当な返事しか送ってこねぇし、月島からも連絡してみてくんない?」 「僕…?」 「そう。月島にはちゃんと返事してくるかも。」 それは無いだろうな、と思った。 去年の夏、あれだけはっきりとフラれたんだ。 今さら『何で休んでるの?大丈夫?』なんて連絡したところで、面倒臭いと思われて終わるだけだろう。 「穂高くんでその反応なら、僕なんて既読すらつかないかも。」 「そうかー?まあ、後で電話でもしてみるかぁ。」 穂高くんと違って、気軽に連絡さえ出来ない関係性にまでなってしまったのだと実感した。 それで勝手に落ち込む自分が馬鹿馬鹿しい。 …それでもまだ、佐野への恋心を捨てることは出来ていなかった。
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