夏の想い出

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◆◆◆ 隣の席になった佐野 大和は、意地悪い奴だ。 黒髪の短髪で、ピアスが特徴的な彼の第一印象は『チャラい』だった。 整った顔に長身の身体。勉強も出来て、友達も多くて、人から好かれていて…。 クラスでも一軍に入る彼は目立っていた。 あの人は、間違いなくアルファだ。 (隣がアルファとか、薬飲まない訳にはいかないじゃんか。) 自分のオメガ性を恨んだ。 身体が成熟してから知った自分の体質に愕然としたのを今でも覚えている。 『普通のオメガよりもアルファの影響を受けやすい』 最悪の一言に尽きた。 只えさえ勉強も運動も人の2倍は努力しないと普通には届かないのに、体質でまで苦労する事になるなんて神様はずいぶんと残酷だ。 それでも嘆いてなんていられない。 夜遅くまで勉強だってするし、いくら隣の席がアルファで『能力の違い』を痛感させられても逃げない。 「ねえ…あそこの子、絶対オメガだよね。分かりやすー。」 一人、学校裏のベンチでお弁当を食べようとしていた時、通りすがりの生徒の声が耳に入ってきた。 くすくすと笑い声まで聞こえる。 辺りには他に誰もいない。僕のことだ。 あれはわざと僕に聞かせているのだと分かって眉をひそめた。 (…くだらない。本当にくだらない!) 心の中で毒づくが、結局世の中は実力主義だ。 結果を出さなければ認められない。 「…テストで全員負かすしかない。」 一番目に見える結果の出し方なんてそれくらいだ。 好物の玉子焼きを頬張りながら気合を入れた。
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