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◆◆◆
窓の外から見える夜空は、雲一つなくて、綺麗な星が数多も浮かんでいた。
そんな真夏の夜の中、俺と月島は同じベッドで寄り添い合っていた。
「佐野、僕、まだ伝えられてないことがあるの。」
「…ん?」
「佐野のこと、大好き。去年の夏からずっと気持ちは変わってないよ。」
「うん、知ってた。」
じっと俺を見つめてくる目に外からの月の光が反射していて、キラキラしている。
「好きな人がいるっていいな。こうしてるだけですげぇ落ち着く。」
「本当?僕、力になれてる?」
「うん、十分すぎるくらい。」
月島とこうしていると、じんわりと心の奥底から込み上げてくるものがあった。
「月島、俺って弱い人間だったみたい。」
「…そっか。」
「色んな感情がぐちゃぐちゃに湧いてきて、苦しくなる。だから、お前がいて良かった。」
「…佐野の気持ちは全部僕の中に覚えておきたい。ずっと忘れない。だから、思ってること全部教えて。」
そう言って、優しく俺の手を握った。
「……本当は、海外で働くのが夢だったんだ。
お金持ちになって、世界一周もしてみたかった。」
「うん。」
「……未来がないのが悔しい。
…死ぬのが、怖い。」
滲んだ涙を見られないように、月島の胸に顔をうずめた。
人前で泣いたのは、初めてだった。
それに応えるように、月島が強く抱きしめる。
「月島とたくさん色んなところに行きたかったし、色んな話がしたかった。もっと抱きたかった。」
「…うん。」
「他の奴になんて取られたくないし、ずっと俺のことを好きでいて欲しい。…本当は、番になりたい。俺のものにしてやりたい。」
その言葉に、月島がゆっくりと腕を解いた。
「僕も佐野と番になりたい。ねえ、噛んで。ヒートじゃないから番契約にはなれないけど、僕たちだけの契約しよ。」
ゆっくりと背を向けて、頸を差し出す月島に一瞬動揺したが、その白い肌に噛みついた。
『神』というものが本当にあるのなら、最期に愛している人を縛る我儘だけ、許してくれ。
あまり力の入らない口元で必死に歯を食い込ませ、やっと口を離すと月島が振り返った。
あの泣き虫の月島が、笑っていた。
泣くと思っていたのに。
…そう言えば、本当は強い人間だったっけ。
俺はそういう月島に惹かれたんだ。
最期に目に映るものが、愛おしい人の笑顔で、俺は幸せ者だったのだと気づいた。
−佐野、おやすみ。大好き。
この上なく優しい声に、ゆっくりと、ゆっくりと、目を閉じた。
END
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