夏の想い出

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窓枠に腕をかけると、鬱陶しそうな顔をした月島がこっちに顔を向けた。 驚かないところを見ると、俺が寄って来ていることには気づいていたようだった。 図書室は人がちらほら居る程度で、月島の周りにはだれも居なかった。 話していても他の人の邪魔にはならなそうだ。 「え、ここ暑くね。6月なんて初夏だぞ。」 「ここ、7月に入らないとエアコンつかない。だから風で凌いでる。」 「ふーん。つか月島、勉強してんだ?授業中はいっつも寝てるのに。」 「うるさいなぁ。…それより怪我、大丈夫なの?」 そう言って俺の傷をちらりと見やった。 その表情の中に『心配』が滲んでいて、少し気分が良かった。 さっきのクラスメイト達とはまた違う、懐かなくて可愛げのない動物が初めて隣に座ってきたみたいな、そんな感覚だ。 「えーなになに、心配してくれんの?もしかして月島ってツンデレ?」 「違う…!でも、なんか…心配っていうか…、」 「うん。」 「話聞こえちゃってたから…。今回は佐野が悪い訳じゃなさそうだし、お前も色々大変なんだなって思って。」 「へえ、信じてくれるんだ。」 意外だった。 月島に限らず、俺の普段のやっている事を考えれば俺の方が嘘吐いてると思われて当然だろうに。 「え、嘘なの?佐野って性格は最悪だけど、嘘吐くタイプではないなって思って。正直すぎて揉め事を起こすのはどうかと思うけど。」 「一言余計だな。」 不意打ちを食らって、目を丸くした。 確かに病気になってからというもの、自分の気持ちや考えを嘘や遠慮で押し殺す、という事はだいぶ減った気がする。 悪く言えば、心のままに行動する…自己中心的ってヤツだ。 しかしせっかくの人生、相手に合わせてなんかいられない。 相手のご機嫌を取っている暇なんかない。 自分のアイデンティティをさっさと見つけて、佐野 大和らしく生きようとするので精一杯。 そういった俺の中身に触れられたような気がして、なんだかくすぐったく感じた。 「…ねえ月島。」 「何?」 「保健室まで付き合ってくんね?」 「嫌だ。」 「頼むよ。俺、場所分からないんだよね。それに怪我の理由聞かれて説明する時に、月島もいた方が話がスムーズになる。見てたろ?」 しばらくじっと俺の顔を見てどうするか考えているようだったが、諦めたように肩をすくめた。 「…分かった。その代わり今度勉強教えてくれる?佐野、いつも小テストで満点って先生に言われてるでしょ。」 「…月島ってツンデレなんだか素直なんだかよく分かんねぇ性格してんな。」 「余計なお世話です。とりあえず僕、下駄箱まで行くからそこに居て。」 そう言いながら机の上を片付け始めた月島と一度別れ、校舎内に向かった。
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