夏の想い出

6/9
前へ
/20ページ
次へ
◆◆◆ 窓から入ってくる風が顔を撫で、その感覚に目が覚めた。 あれからどれくらい寝ていたのかは分からないが、空はもうオレンジ色になりかかっていた。 ふと辺りを見渡すと、ベッド横に自分の鞄が置かれていて、そのさらに横で月島が寝ていた。 カーテンの奥で、保険医が鉛筆を走らせる音がする。 どうやらもう戻ってきたらしい。 最初は開けたままだったカーテンが閉まっているという事は、保険医が気を利かせてやってくれたのだろう。 しばらくボーっとしながら、自分の体調を窺ってみる。 どうやらもう落ち着いたようだ。 念のため、鞄に入れてあった薬を飲んでおく事にした。 (…そういや午後に飲む分、まだだったな。) 平気だろうとタカを括ってしまっていた自分に舌打ちする。 学校じゃあバレないように注意していたのに。 月島が変に勘繰らなければ良いが。 そう思いながらもう一度月島を眺めた。 布団の上に突っ伏して、気持ちよさそうに寝ていた。 頬が潰れていて不細工になっている。 その顔に思わず小さく笑ってしまった。 あれだけ付き添うのは渋々といった感じだったのに、結局最後まで一緒に居てくれたのかと考えると、可愛く思えた。 布団越しに伝わってくる月島の重さが心地よい。 起こそうかとも思ったが、手放すには惜しく感じた。 「…月島、嫌だったらごめん。」 起こさないように慎重に体を持ち上げて、月島の体を布団の中に入れた。 腕の中に抱え込んで、彼の髪の柔らかさを楽しむ。 「うわ、子ども体温。」 こういう風に人に甘えるのはいつぶりだろう。 可哀想に思われたくない、気を遣われたくない。 その一心で必死に一人で立ってきたけど、本当は誰かに寄りかかりたいのかもしれない、と思った。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加